第161話 体育祭編part15 百メートル走①

 午前中の体育祭も終盤。

 いよいよ、次は百メートル走だった。

『2年生百メートル走に参加される方は入場門に集合してください』というアナウンスを聞き、俺と姫香は入場門のところに向かうことにした。

 

「ようやく来ましたね。この時が・・・・・・」

「そうだな。緊張はしてないか?」

「はい。なんとか」

「こけるなよ?」


 俺がそう言うと姫香は「大丈夫です」と笑顔で頷いた。

 

「翔君こそ、絶対に一位を取ってくださいね?」

「どうだろうな。頑張るけど・・・・・・」

「応援してますね!」

「俺も応戦してるよ」


 入場門に到着して、走る順番に並んだ。

 俺は男子側の一番後ろ5番目に並ぶ。

 

「よう!王野!来たな!」


 隣には片桐雄二がいた。

 俺のことを見つけて満面の笑みを浮かべていた。


「久しぶりだな。片桐」

「お!今度は俺の名前を覚えてくれてたみたいだな」

「俺が忘れてたことがあったか?」

「あっただろ!まぁ、そんなことはどうでもいい。今日こそは勝たせてもらうからな!」


 片桐は俺に人差し指を向け勝利宣言をしてきた。

 

「本気で走れよ。じゃないと勝負にならんからな」

「正直、面倒なんだがな。本気で走ると約束してしまったからな」


 俺は姫香のことを見た。

(緊張してんじゃねぇか・・・・・・)

 姫香の顔は少し強張っているように見えた。


「そうか。誰と約束したかが気になるが、それなら安心だ」

「なぁ、これで勝負をするのはやめにしないか?」

「どうしてだ!?」

「どのみち勝負できるのはあと一年だろ。今年の俺は本気を出す、だが来年も本気を出すとは限らない。だから、今日が最後の勝負にしといた方がいいとは思わないか?」


 俺がそう言うと片桐は悩ましそうな顔を浮かべた。

 本音は面倒くさいだが、こうでも言わないと来年も勝負をふっかけられそうだしな。

 それに来年の俺が本気を出すとは限らないと言うのは事実だ。

 今年は姫香の頼みだから本気で走るが、来年はもしかしたら体育祭にすら参加しないかもしれない。


「分かった。それでいい。その代わり、俺と友達になってくれ」

「は?」

「だめか?」

「別にいいが・・・・・・友達になってどうするんだよ」

「友達になるのに理由はいらんだろ。ただ、お前と一緒にいたら退屈しなさそうだと思っただけだ」


 それが本音とは思えなかったが、俺は「わかった」と頷いた。

 すると片桐は子供のような無邪気な笑顔で笑った。


「よろしくな。翔!」

「よろしく」


 片桐と握手を交わすと「入場をお願いします」と体育委員(歩)が言った。

 俺たちは立ち上がって校庭に向かって歩き始めた。

 その時、歩にすれ違いざま「頑張れよ」と声をかけられた。

 俺は頷きを返し、入場門をくぐった。


☆☆☆

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