第158話 体育祭編part12

 そしてやってきた体育祭当日。


「いよいよですね」

「そうだな」


 いつものように姫香と二人朝の教室の時間を満喫していた。


「楽しみです!」

「今年は参加できてよかったな」

「最近はあんまり仕事を入れてもらわないようにしてますからね。とにかく、翔君の活躍が見れるのが楽しみです!」

「まぁ、精一杯頑張るよ。姫香にガッカリされないように」

「ガッガリなんてしませんよ。どんな翔君もカッコいいですから」

「そうか」

「照れてます?」

「照れてない」

「絶対に照れてますよね?」


 ニヤニヤと笑って俺の顔を覗き込んでくる姫香。そんな姫香から顔を逸らし、教室の扉の方を見ていると慌てた様子の歩が入ってきた。


「翔!助けてくれ!」


 教室に入ってくるなり開口一番にそう言った歩。


「どうした?朝っぱらから」

「実はな・・・・・・」


 そこで言葉を切った歩は俺たちのことを見「あ、もしかして邪魔したか?」と気まずそうな顔をした。


「別にそんなんじゃない。ただ話をしてただけだ。で、何があったんだよ?」

「ああ、実はな・・・・・・」


 歩の話を簡単にまとめると、クラスメイトとの一人が昨日骨折したということだった。


「それは災難でしたしね」

「そうなんだよ。しかもそいつ学年別リレーのメンバーなんだよ」

「それで、俺に何をしろと?」

「そんなの一つしかないだろ。翔には・・・・・・」

「嫌だ」

「まだ何も言ってないぞ?」

「何を言うかなんて大体分かる」

「なら、話が早いな!」

「だから出ないからな」

「なんでだよ!?出てくれよ!この通りだから!」


 そう言った歩はおでこを床につける勢いで俺に頼み込んできた。

 どれだけ頼まれたって出るつもりはない。

 学年別リレーは体育祭の大トリで大勢の生徒が注目する種目だった。そんなに出たら目立ってしょうがない。


「百メートル走に出るんだからそれでいいだろ。他のクラスメイトに頼めよ」

「それじゃあ、ダメなんだよ」

「なんでだよ」

「勝てないだろ」

「誰に?」

「他のクラスに、それとあの生徒会長だな」

「どうしてそこであいつが出てくるんだ」

「そりゃあ、走るからに決まってるだろ」

「生徒会長が出るから俺も出るとはならない」

「どうしてもダメか?」

「無理だな」


 俺がそう言うと、歩は「仕方ない」と呟いて姫香の方を向いた。


「姫香ちゃん、お願いします」

「分かりました」


 姫香と歩は何やら不穏なやりとりを交わしていた。


「翔君。出てあげてくれませんか?」


 机の上に顔を置いた姫香の深紅の瞳が俺のことを見上げていた。

 どうやら、姫香は歩側についたらしい。その腹の中はどうせ俺の活躍するところが見たいとかそんな感じだろう。

 

「俺にメリットがない」

「なら、私がご褒美をあげるて言うのはどうですか?」

「ご褒美ね・・・・・・」

 

 正直それはかなり魅力的だが、どうしてここまで俺が活躍するところが見たいのか。

 俺にはさっぱり分からなかった。


「なぁ、姫香。どうしてそんなに俺が活躍するところが見たいんだ?」

「言ったじゃないですか。私はただ翔君のカッコいい姿が見たいだけです。好きな人のカッコいい姿を見るのはいけないことですか?」


 そうだった。そうやって言われて俺は百メートル走に出ることを決めたんだった。

 先日はカッコ悪いところ見せてしまったからな。

 

「はぁ〜。仕方ない。分かったよ。出るよ」

「本当か!?」

「ただしアンカーはやめろよ?」

「分かってるって!」


 本当に分かっているのか歩は「じゃあ、そのことを伝えに行ってくるわ」と満面の笑みで教室から出て行った。


「これで翔君のカッコいい姿が二回も見れます!」

「それはよかったな」


 俺が不満そうな顔でそう言うと姫香が耳元に顔を近づけてきて「ご褒美楽しみにしててくださいね」と甘く囁いた。

 それで、少しだけやる気が出たのは姫香には内緒だ。


☆☆☆

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