第154話 体育祭編part8

 生徒会長が怒ったという噂は瞬く間に学校中に広まった。

 それは当然、俺たちのクラスにも届いていた。

 午後の授業中ずっと真美と歩、さらに姫香から視線を浴びていた。授業と授業の合間の十分休憩になる度に真美と歩は俺のもとにやってきては、俺が生徒会長を怒らせたのではないかと聞いてきた。もちろん、今日の作戦を知られるわけにはいかなかった俺は誤魔化し続けた。

 結局、二人の疑いは晴れることなく、放課後となった。

 部活動が始まる時間ギリギリまで俺のことを疑っているようだったが、時間になると二人は教室から出て行った。


「本当にこれでよかったんでしょうか?」

「さぁな、後で怒られるかもしれないが、仕方がない。これが一番最善策なんだ」

「そうですか」


 姫香はどこか納得していない様子だったが、ここまでしてしまったからにはもう後には引けない。

 俺はカバンを持って立ち上がった。 


「ほら、俺たちも行くぞ。分かってると思うが……」

「危なくなったら逃げる、ですよね」

「ああ、それが分かってるならいい」


 姫香と一緒に教室を出て、体育館裏に向かった。

 俺と才津が話しているのを録画できる位置に姫香を残して、先にやってきていた才津のもとに向かう。

 どうやら、一人では来なかったらしい。才津の後ろに取り巻きが数にいた。


「てめぇ!俺を待たせるとはいい度胸してんな!」


 才津と目を合わせると開口一番そう言って俺を威嚇してきた。


「お待たせいたしました。一人では来なかったんですね」

「そんなことはどうでもいいだろ!昼間のあれはどういうつもりだよ!」


 俺に一歩近づき、胸倉を掴まれる。

 グイッと体が少しだけ宙に浮いた。


「俺のこと舐めてんのか!痛い目見ないと分かんないようだな!」

「そうやって今まで何人もの生徒を脅してきたんですか?最低な生徒会長ですね。生徒会長ってのは生徒の鏡であるべきでは?」

「ごちゃごちゃうるせぇ!」

 

 俺の胸倉を掴んでいた才津の手が離れ、投げ飛ばされて尻から地面に落ちた。


「もういい!人がせっかく忠告してやったのに無視しやがって!どうなっても知らないからな!やれ、お前ら!」

 

 才津の合図で後ろに控えていた柄の悪そうな生徒達が俺に近づいてくる。その手には金属バッドや竹刀を持っていた。

 さて、どうするかな。

 ここまでやられたらもう十分な気もするが、後一発くらいは殴られておくか。

 取り巻きの一人がヤンキー座りをして、俺に言ってくる。 


「お前もバカだな。才津さんに逆らうなんて。もうこの学校にお前の居場所はないと思った方がいいぞ。あのお方は理事長の甥っ子なんだ。お前みたいな小物は簡単に消せるんだよ」


 もしも、それが本当だとしたらこの学校は腐ってるな。

 甥っ子の悪事を隠すようなやつが理事長をしてるんだから。


「大人しく女を差し出しとけばこんな目に遭うこともなかったのにな。まあ、才津さんに目をつけられたのが運の尽きってやつだな。可哀そうに。安心しな。お前の彼女はちゃんと俺たちが可愛がってやるからよ」


 最後のその言葉で俺の冷静さはどこかへ飛んで行った。

 冷酷な目を向け、ゆっくりと立ち上がった。


「ここなら誰も来ないと思って安心したか?俺が誘い出した罠だってことは考えなかったのか?」

「急に何言ってんだ?」

「この手慣れた感じからして、お前らはいるもここで生徒を脅してきたんだろうな」

「だから、何言ってんだよ!?」


 取り巻きの一人が俺めがけて金属バットを振り下ろしてきた。

 俺はそれを片手で受け止めた。突然のことに驚いていた俺に殴りかかってきた男のみぞおちに蹴りを入れた。男は「ぐっ」と悲鳴を上げながら才津の方へ吹き飛んだ。


「な、何しやがる!?」


 今度は竹刀を持った男が俺に殴りかかってきた。

 俺はそれを避け、男の手から竹刀を奪い取ると、綺麗な面を喰らわせた。


「次はどっちが来る?」


 残り二人の取り巻きを俺は睨みつけた。

 俺が近づくごとに二人は後ずさりをする。壁際まで追い詰めると、俺は男から奪い取った竹刀で籠手を喰らわせ二人の手から武器を奪い取った。

 それで完全に戦意喪失した二人はその場にしゃがみこんだ。


「で、あんたはどうする?あんたのを守ってくれるやつはここにはもういないぞ?」

「お、お前、何者なんだよ!?」

「ただの通りすがりのお節介焼きだ。残念だが、俺は真美の彼氏ではない」

「お前、俺を騙してたのか!」

「あんたが勝手に騙されただけだろ。俺は一言も真美の彼氏だなんて言ってないからな」

「ふざけんな!どこまでも俺をバカにしやがって!」

 

 才津はポケットから小型ナイフを取り出した。その瞬間、後ろの方から「きゃ!」という悲鳴が聞こえた。


「才津さん。この女、動画を撮ってます」


 後ろを振り向くと、姫香が乱暴に腕を引っ張られていた。その首元にはギラっと光る小型ナイフ。

 どうやら、まだ取り巻きがいたらしい。姫香の首にナイフをあてられていては動くことができなかった。


「よくやった。そのままその女を連れてこっちに来い。ヘマをしたな。これで形勢逆転だな」

「姫香……」


 姫香を連れた取り巻きが才津のもとに到着した。


「へぇ~。綺麗な女だな。お、よく見れば、噂の大人気女優さんじゃないか。もしかして、お前の彼女か?」


 才津が姫香の頬に小型ナイフの腹をあててニヤニヤと笑っている。


「この綺麗な顔を傷つけられたくなかったら、その竹刀を置け!」


 俺は才津の指示に従ってしないから手を離した。


「こいつを俺の物にするのもいいかもな?」

「やめろ!」

「散々俺のことを侮辱したんだ。そこで後悔しろよ」


 そう言って才津は姫香の顔に自分の顔を近づけていく。

 

「や、やめてください!」

 

 必死な抵抗を見せる姫香を才津はナイフの腹を頬に押しあてて黙らせる。


「おいおい。暴れるなよ。その綺麗な顔に傷ができちまうぜ」

 

 どうにかして姫香を助けないと。でも、あいつらがナイフを持っている限り下手に動くことができない。

 あのナイフさえどうにかできれば……。

 そう思った、その時、俺の顔の横を二つのサッカーボールが通り過ぎて行った。

 

 ☆☆☆


 

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