真美の悩み

第151話 体育祭編part5

 姫香が『バカップル』に俺の家でコーヒーの淹れ方を教え始めて1週間が経過した。

 体育祭が刻一刻と近づいてきていた。

 今日も今日とて、学校帰りに三人は俺の家に集まってコーヒーの淹れ方を練習しているのだった。


「翔はやらなくていいのか?」

「姫香のようなやつはできないけど、ある程度はできるからな」

「さすがだな。ところで、今年もあいつ突っかかってくるかもな」

「あいつって?」

「忘れたのか?中学生時代から翔のことを勝手にライバル視しているあいつだよ」

「そんなやついたか?」

「眼中にないって感じだな。ほら、片桐だよ。片桐雄二かたぎりゆうじ。自称翔のライバル」


 歩に名前を言われてもいまいちピンとこなかった。

 

「その顔はまだピンときてないようだな」

「そうだな。全然思い出せん」

「なんだか片桐のやつが可哀そうに思えてきた……まぁいいや。どうせそのうち、翔に宣戦布告しに来ると思うし」

「めんどくさいからやめてくれと言っといてくれ」

「別に俺も友達ってわけじゃないから無理だな」


 そう言って笑うと「次、歩の番だよ~」と真美に呼ばれた歩はキッチンに戻っていった。

 歩と入れ替わりで今度は真美が俺のもとにやってきた。


「次は真美か」

「な~に?そんなにめんどくさそうな顔しなくてよくない~?」

「そうは思ってないけど、静かに本を読ませろよ」

「いいじゃない本くらい、いつでも読めるでしょ」

「今いいところなんだ。話なら後で……」


 真美が俺の手から本を取り上げた。

 

「ちょっとさ、相談に乗ってほしことがあるんだよね」


 いつになく真剣な顔でそう言った真美。

 真美がこんな顔をするのは珍しい。

 そんな真美の態度に俺は本を取り返すのを諦めて話を聞くために居住まいを正した。


「話は聞くから栞だけ挟んでもいいか?」


 本を返してもらい読んでいたページに栞を挟んでサイドテーブルの上に置き真美の顔を見た。


「で、何に困ってるんだ?」

「さすがだね。まだ何も言ってないのに私が困って分かるなんて」

「真美が相談があるってときはだいたいが頼み事だろ」

「そうだっけ?」

「それか歩との惚気だな。その時の顔は今とは違う顔だから、今回は困り事だと分かっただけだ」

「相変わらず人のことよく見てるわね」

「本当に大事な人だけだけどな」


 基本的にどうでもいいやつのことは顔すら覚えていないのが俺だ。

 だから、片桐雄二という生徒のことは覚えていない。俺の中でどうでもいいやつ認定されてるんだろう。


「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。私は翔の大事な人の中に入ってるってことでいいのよね?」

「そうだな。真美も歩も、もちろん姫香も俺にとって大事な人だな」

「ありがと。そんなこと言ってもらって、こんなこと相談するのは申し訳ないんだけど……」

「真美が遠慮するなんて珍しいな」

「さすがにね。でも、こんなこと頼めるの翔くらいしかいないし。歩には怪我してほしくないし」

「俺が怪我をするとは思わないのか?」

「大丈夫。翔は『超人』だから」

「だから、俺だって普通の人だって……もういいや。どうせお前ら何回言っても言ってくるだろうし。で、何があったんだ?」


 俺がそう言うと真美は緊張した感じで話し始めた。


「これは歩も知ってることなんだけどね。つい最近、私、先輩に告白されたんだよね」

「そうなのか……」

「翔には言ってなかったもんね」

「初耳だな。てか、いまだに告白されるんだな」

「うん。ほんとにたまにだけどね。私が歩と付き合っているって知っててもまだいるかな」


 その事実に俺は驚いていた。

 歩と付き合う前は、つまり中学時代の真美がかなりの人数に告白されていたことはしていた。そして、歩と付き合い始めてから、真美に告白する人はいなくなったと思っていた。

 だから、いまだに真美に告白する生徒がいたことに俺は驚いた。


「でね、本題はここから。ここからは歩も知らない話。今回私に告白してきた生徒が才津なの」

「才津?」

「知らない?三年生で生徒会長。才津玲人さいつれいじ

「悪い。知らない。そいつどうかしたのか?」

「実はさ、歩と別れて俺と付き合えってしつこいのよね」


 真美はうんざりといった顔をしていた。

 その顔を見るに相当しつこいらしい。


「それだけなら、私が我慢すればいいだけだから、耐えれるんだけどね。歩と別れないないなら、歩がどんな目に遭っても知らないからな、って脅してきたのよね」

「なんだそいつ。そんなのがよく生徒会長なんてやってるな」

「まぁ、顔と人脈だけで生徒会長になったような人だからね。それに悪いことはバレないようにやってるみたいだし」

「教師はなんでそんなやつ見過ごしてるんだ?」

「言ったでしょ。人脈が凄いのよ」

「教師でもビビるほどの人脈ね……」

「理事長の甥っ子なのよ。彼」

「ああ、そういうことね」


 そりゃあ、教師でも逆らえないわけだ。

 まったく、めんどくさい相手に惚れられたもんだな。

 確かに、真美は美人だ。姫香がいなかったらおそらく学年一の美少女として有名になっていただろうな。

 

 顔は綺麗に整ってるし、笑顔も素敵だ。そのうえ性格も明るいし、友達想いのいいやつ。そんな真美と付き合えるのは、真美以上に性格が明るくて、友達想いの歩くらいなものだ。今更、真美が歩以外の男と楽しそうに笑っているところなんて想像できない。そのくらい二人はお似合いのカップルだ。

 

 そんな二人の仲を引き裂こうとしていると知っては黙ってはいられないな。

 真美と歩は俺にとって本当に大事な友達だ。二人がいなかったら、俺は今ここにはいないかもしれない。そのくらい、俺は二人には中学生の時に助けてもらったことに恩義を感じている。 

(恩は返せるときに返しておかないとだよな……)

 俺はどんなことでも引き受けると決めた。 


「それで、俺は何をすればいい?」

「え、助けてくれるの?」

「大事な友達が困ってたら、真美だって助けるだろ?それと一緒だ」

「そっか。そうだね。私だってそうする……」

「だろ?だから、遠慮せずに何でも言え」

「翔、私を助けて!」

「助けるさ。必ず」


 今にも泣き出しそうな顔をしていた真美の頭を優しく撫でた。

 それから、真美と作戦会議をして、どう撃退するかの作戦を立てると二人は帰って行った。

 作戦会議終盤、真美は気が付いてない様子だったが、コーヒーを淹れる練習を終えていた歩と姫香が俺たちのことを心配そうな顔で見ていた。


☆☆☆



 

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