『⑨氷室姫香の実家』
8月21日(土) 6:00~
翌朝、目を覚ますと腕の中に姫香が・・・・・・なんてことはなく、普通に目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む朝日が目に眩しかった。
「六時か・・・・・・」
すっかりとこの時間に起きることが習慣付いてしまった俺は寝る場所が変わってもいつもの時間に起きたようだ。
ベッドから起き上がり、洗面所へ向かう。
「翔君。おはようございます」
「おはよ。姫香」
「早いですね」
「もう、すっかりとこの時間に起きるのが体に染み付いちゃったみたいだ」
「それは、いいことですね!早起きは三文の徳ですから!」
「姫香のおかげだな」
「私のですか?」
「あぁ、姫香とどっちが早く教室にいるかの勝負をしてたから、この時間に起きる習慣がついたんだ」
「そうなんですね」
姫香は嬉しそうに笑った。
「また、学校が始まったら競いましょうね!」
「そうだな」
「私が勝ちますけどね!」
「俺が勝つから」
「じゃあ、ご褒美をかけましょう」
「ご褒美?」
「はい。9月の30日間、どっちが多く勝てるかで勝負です!それで、勝った方はどうしましょう?」
「そこが重要だろ!」
「何も思いつかないんですもん。翔君、何かありますか?」
「そう言われると、俺もないけど・・・・・・」
「一緒じゃないですか」
そう言って姫香は唇を尖らせた。
「仕方ないです。ご褒美は後日考えるということにしましょう」
「そうだな」
俺、姫香の順番に顔を洗ってリビングに移動した。
リビングにはまだ誰もいなかった。
「先にご飯食べちゃいますか?」
「待たなくていいのか?」
「きっと後二時間くらいは起きてきませんから」
「そっか」
「いつも八時くらいですからね」
姫香は「ご飯作っちゃいますね」とキッチンに向かった。
手持無沙汰になった俺は何をするでもなくソファーに座って姫香の料理をしている姿を眺めていた。
その時の俺の心情は……
姫香と結婚したらこんな感じなのかというものだった。
そんな姫香はご飯を作り終えたらしく、料理の乗ったお皿をテーブルに運んでいた。
俺はキッチンに向かい茶碗を手に持った。
「俺も手伝うよ」
「ありがとうございます」
2人分の朝食をテーブルに並び終え、向かい合って座るといただきますをして朝食を食べ始めた。
「なんだか、夫婦になったみたいですね」
「ぶぅ……」
姫香がいきなりそんなことを言うものだから、俺はお味噌汁を吐き出しそうになった。
「い、いきなり、そんなこと言うなよな!?」
「だって思いませんか?」
「いや、そりゃあ……思うけど」
「もし、翔君と結婚したらこんな未来が待ってるんですね」
「結婚したら、なのか?」
「え?それはどう意味ですか?」
「さ、さぁな……」
「え~。どういう意味ですか~。教えてくださいよ~」
思わず口が滑ってしまった。
俺は誤魔化すように味噌汁を啜った。
「そ、そういえば24日に海に行くんだっけ?」
「あ~。露骨に話し変えましたね!答えを聞くまでひきませんからね」
「姫香はどう意味だと思った?」
「私と結婚してくれるのかと……」
あまりにも素直に姫香が言うので、恥ずかしがっている俺の方が変なのかと思ってしまった。
「違いましたか?」
「あぁ、もう!そうだよその通りだよ!」
「翔君は私と結婚したいのですね」
姫香はニヤッと笑って俺のことを見た。
「そうだよ!」
もう、こうなったらやけだと思って包み隠さずに素直な気持ちを打ち明けることにした。
「俺は姫香と結婚したいと思ってるよ」
「私もですよ。二人とも大人になったら結婚しましょうね。翔君との子供は絶対に可愛い子ができます」
「気が早いな。まぁ、姫香に似た可愛い子ができると思うけど……」
俺は急に恥ずかしくなって頬をぽろぽりと掻いてぼそぼそと言った。
「約束ですからね?」
「そうだな。姫香に嫌われないように頑張るよ」
「私が翔君を嫌いになると思いますか?」
「それは分かんないだろう。人なんてのはちょっとしたきっかけで気持ちが変化するものだからな」
「十年以上、翔君への好きの気持ちが変わらなかったのに?」
「それは……」
「大丈夫ですよ。たとえ、翔君が浮気しても私の気持ちが変わることはありませんから」
そう言った、姫香の口元は笑ってたが、その深紅の瞳は笑っていなかった。
「浮気なんかするわけないだろ。俺には姫香しか見えてないよ」
「じゃあ、大丈夫ですね。私も翔君しか見えてませんから」
「それは、どうも……」
今度はちゃんと深紅の瞳も笑っていた。
そのことに安堵した俺は朝食を綺麗に完食した。
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