『⑥氷室姫香の実家』
四人で食卓を囲んで夕飯を食べた後、リビングには俺と雄二さんの二人だけが残っていた。
姫香はお風呂に入っていて、舞香さんは残っている仕事があるらしく自室に戻っていった。
「ビール、飲んでもいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
「ありがとう」
雄二さんは冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを取り出して椅子に座った。
つまみにチーズケーキを食べるらしい。
一緒に食べて美味しいのだろうかという疑問を持ちつつ俺は雄二さんの前の席に座ていた。
「いろいろと聞きたいことと話さないといけないことと謝らないといけないことがあるんだが、どれからにするかな」
雄二さんはビールのプルタブをプッシュっと開けると、グビッと一口飲んだ。
「そうだな。まずは謝らないといけないことから話そうか」
「は、はぁ……」
謝らないといけないこととは一体何だろう。
心当たりが何一つなかった。
「まずは、すまなかった」
雄二さんは頭をテーブルにつけて謝った。
「え、あ、頭を上げてください」
「本当に申し訳なかった。私の転勤で幼かった二人を急に離れ離れにさせてしまうことになってしまって」
「……そのことですか。もう、気にしてませんよ。転勤なら仕方ないですし、それにこうしてまた再会することができましたから」
「本当に恨んでないかい?」
「恨む?そんなことするわけないじゃないですか」
「そうか。姫香には物凄く嫌われてしまったから、もしかしたらと思っていたが……」
「姫香が雄二さんを嫌ってたんですか?」
「そうなんだよ。翔君と離れ離れになるってことが分かった日から、まったく口を聞いてくれなくなってね。一人で単身赴任するっているのも考えたけど、それは舞香が許してくれなくて」
「そんなことが……あったんですね。でも、さっきは仲よさそうでしたよね」
「そうなったのはつい最近のことなんだよ。それこそ、翔君が同じ学校に通ってるって知ってからかな。そこからは、普通に話もしてくれるし、笑顔も見せてくれるようになった」
雄二さんは苦笑いを浮かべて俺のことを見て、もう一度頭を下げた。
「本当にありがとう。もう一度、姫香に出会ってくれて。もしも、翔君と再会していなかったらあの子は……」
顔を上げた雄二さんの目には涙が浮かんでいた。
「だから、本当にありがとう」
俺は何と言えばいいのか分からず口を開けずにいた。
「翔君に恨まれてないと知ってホッとしたよ。でも、まさか姫香と同じ学校に通ってるなんてね。これはもう、運命としか言いようがないね」
「かも、しれませんね」
「ここからは話さないといけないことかな。といっても、そんな大した話じゃないんだけどね」
「はい」
「姫香のことをよろしく頼むよ。これからも支えてあげてほしい」
「はい……はい!?」
雄二さんからの予想外の言葉に俺は目を丸くして驚いた。
そんな俺を見て雄二さんは二ッと笑った。
「言質は取ったからね。頼んだよ」
「……はい」
「なんだ、その自信のない返事は。そんな返事をする男には私の娘はやらんぞ?」
「しっかり支えます!姫香さんを幸せにします!」
俺が大きな声でそう言ったその時、リビングの扉が開いて姫香が入ってきた。
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