『④氷室姫香の実家』

 8月20日12:00〜


 お昼になり舞香さんがリビングに降りてきた。


「お仕事終わった?」

「一旦休憩〜。お昼ご飯作らないといけないからね〜」

「あ、私も手伝うよ。何作るの?」

「おはぎにしようかなって思ってる〜」

「俺も何か手伝えることありますか?」

「王野君はお客さんだからいいわよ。ゆっくりしてて〜」


 舞香さんにそう言われ、ソファーに座り直した。

 俺はキッチンに立っている親子を見た。

 というか、眺めていた。

 ただただ、眺めていた。その美しい光景を。

 キッチンに立って料理をしているだけなのに、目を惹かれてしまう。

 二人はよく一緒に料理をしているのか、その手際は良かった。 

 粒あんを煮詰め、餅米を丸め、煮詰まった粒あんを潰し、餅米に粒あんをつけておはぎが出来上がっていく。


「お待たせいたしました」


 姫香がおはぎの乗ったお皿をテーブルに置いた。

 俺はソファーから立ち上がって姫香たちの元に向かった。

 そして、さっきと同じように椅子に座った。


「たくさん食べてね〜」

「翔君はおはぎ好きですか?」

「うん。好きだよ」

「よかったです。食べれなかったら、どうしようって、お母さんと話をしてたんです」

「大丈夫。ちゃんと食べれるよ」


 姫香が「はい、どうぞ」とおはぎを小皿に取ってくれた。

 俺は「ありがとう」と言って受け取った。


「いただきます」

「どうぞ、召し上がれ」


 出来立てホヤホヤのおはぎを口に運ぶ。

 柔らかい餅米とちょうどいい甘さの粒あん。

 何個でも食べれそうなくらい美味しかった。


「どうかしら?」

「とても美味しいです」


 俺は一個目のおはぎをペロッと完食し、二個目のおはぎに箸を伸ばした。


「ところで、翔君。さっきずっと見てましたよね?」

「え・・・・・・」


 急に姫香が耳元で囁くもんだから、掴んでいたおはぎを落としそうになった。


「ちゃ〜んと、バレてるんですからね」

「き、気をつけます・・・・・・」

「いえ、別に見るなって言ってるわけじゃないですよ?」

「そう、なのか」

「翔君に見られるのは、むしろ嬉しいですから」


 姫香が恥ずかしそうにそう呟いた。

(そんなこと言われるこっちの方が恥ずかしいわ!?)

 

「でも、そのできれば二人きりの時にお願いします」

「わ、分かったよ・・・・・・」


 俺は平常心を取り戻すため、おはぎを口に運んだ。

 二回目のおはぎはさっきよりも数段甘く感じた。

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