『③氷室姫香の実家』

 舞香さんがチーズケーキをお皿に取り分けてくれた。

 断面までしっかりと綺麗な焼き色をしていた。


「さ、召し上がれ」

「ありがとうございます」

「お母さんのチーズケーキは美味しいですよ」

「そうなんだ」


 俺はチーズケーキを一口食べた。

 口に入れた瞬間に溶けてなくなるスフレチーズケーキだった。

 

「美味しい」

「ありがとう」


 舞香さんは嬉しそうに微笑んでチーズケーキを一口食べ幸せそうな顔をした。

 舞香さんの美味しい過ぎるスフレチーズケーキは一瞬でなくなった。


「残りはお父さんに取っておきましょう」

「そう言えば、お父さんはチーズケーキが好きだったね」

「夕方には帰ってくると思うわ」

 

 舞香さんは残ったチーズケーキを冷蔵庫にしまった。

 あのチーズケーキなら冷やしてもきっと美味しいだろうと思った。

 

「ちょっと、私は仕事をしてくるわね。王野君ゆっくりとしてくれていいからね~」

「はい。ありがとうございます」


 舞香さんはリビングから出て行った。

 取り残された俺たちはソファーに移動して、どうしようかと顔を見合わせた。


「私たちはどうしましょうか?」

「どうしよっか。姫香が育った街を案内してもらいたいけど、外は暑いしな」

「それに案内するところなんてないですよ?」

「そんなことはないだろう。一個くらいはお気に入りの場所があるんじゃないのか」

「それは、たしかにありますけど・・・・・・」


 歯切れ悪く言う姫香。

 もしかして、俺の知らない十数年の間に何かあったのだろうか。

 

「どうしても行きたいですか?」

「いや、やめとくよ。姫香に無理させたくないし」

「別に、無理なんか・・・・・・」

「隠すなって、姫香の顔見てれば分かるよ」


 そう言って俺は姫香の頭を撫でた。


「じゃあ、読書でもするかー」

「ごめんなさい」

「謝ることないよ。俺は姫香と一緒にいれればそれだけでいいから」

「・・・・・・翔君」


 二人は見つめ合って、そのまま軽くキスを交わした。

 

「それじゃあ、本読むか」

「はい」


 それから、俺たちはお昼まで読書をすることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る