『①氷室姫香の実家』

 8月20日(金) 10:00〜


 姫香の実家は電車で2時間、県を一つ跨いだ先にあった。

 

「すっかりとお父さんの小説にハマったみたいだな」

「はい!とても面白いです!」

「そうやって言ってくれるとお父さんも喜ぶよ」


 姫香は電車に乗っている間、ずっとお父さんの小説を読んでいた。

 その顔はすっかりと読書家の顔だった。

 電車が到着して駅のホームに降り立った。


「ここが姫香が過ごしてた場所か」

「そうですね。私の家はここから歩いて10分くらいで着きます」

「了解」

 

 改札でカードをピッとやって駅を出た。

 全く知らない街。

 姫香が育ってきた場所。


「どうしましたか?」


 俺が駅を出たところで立ち止まっていると姫香が振り返って心配そうな顔をしていた。


「いや、いい場所だなって思ってな」

「どうなんでしょう?私はあんまり好きじゃないです」

「そうなのか?」

「はい」


 姫香は苦笑いを浮かべて、行きますよ、と俺の手を取った。

 姫香に連れられること10分。

 姫香の実家に到着した。

 二階建ての一軒家。

 まだまだ新築みたいな綺麗な家だった。


「ここが、今の私の実家です」

「綺麗な家だな」

「建ててからまだ10年も経ってませんからね」

「そうなんだ」


 姫香が呼び鈴を鳴らして、鍵を使って玄関を開けた。


「お母さん。ただいま〜」

「おじゃまします」


 俺も挨拶をして姫香の後に続き家の中に入った。

 いかにも新築という匂いに出迎えられ、俺たちは靴を脱ぎスリッパに履き替えた。

 そこで、廊下の突き当たり、おそらくリビングであろうところから、ひょこっと、姫香そっくりの女性が顔を出した。


「あら、姫香。おかえりなさい」

「ただいま。お母さん。何してるの?」

「お菓子作りよ〜。ちょっと今手が離せないの。ごめんね〜」


 姫香のお母さんはそう言うと顔を引っ込めた。


「姫香そっくりだな」

「よく言われます」


 髪色こそ違うものの顔のパーツはほとんどお母さん譲りなのだろうと思うほど似ていた。


「お母さんに惚れないでくださいね?」

「あたりまえだろ」


 姫香は冗談ぽく笑った。


「冗談ですよ。私たちもリビングに行きますか?」

「そうだな。何作ってるのか気になるしな。お母さんはお菓子作りをよくやるのか?」

「しょっちゅうしてますね。そして、いつも作りすぎるから、食べるのが大変で」

「そっか」


 俺たちはリビングに向かった。

 リビングに近づくにつれ、いい匂いが漂ってきた。

 この匂いは・・・・・・。


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