『⑥王野翔の実家』

 俺たちもリビングに行くと、お父さんがいた。

 お母さんはソファーで爆睡中だった。

 結局、昨日は下に降りてこなかったので、姫香と初対面ということになる。


「お父さん、久しぶり」

「おー。翔か。元気だったか?」

「まぁね。そっちは?昨日は1日部屋にこもってたみたいだけど」

「元気だぞー!ちょっと新作の締め切りがヤバくてな」

「過労で死ぬなよ」

「大丈夫だ。そんなにやわじゃないからな。心配ありがとな」


 お父さんはニカッと笑って俺の頭をガシガシと撫でて、隣に立っている姫香のことを見て言った。


「姫香はお父さんにも会ったことあるよな?」

「はい。何度か」

「この人が俺のお父さん」

「以上かよ!?そんな、雑な紹介があるか!?」


 お父さんが盛大にツッコミを入れる。

 そして、自己紹介を始めた。


「改めて、ようこそ王野家へ。僕は王野昇おおののぼる。翔のお父さんやってます。職業はしがない小説家。いろんなところを飛び回ってSF小説を書いてます。ところで、氷室ちゃんは本は読むかい?」

「はい。最近、読むようになりました。翔君のおかげで」

「そうかい。本はいいよ。いつだって、いろんなところに連れて行ってくれるからね。これからもたくさんの本と出会ってね」


 そこで、自己紹介を締め括るとお父さんはニコッと笑った。


「やっぱり、覚えてたんだな。姫香のこと」

「そりゃあ、忘れないさ。記憶力には自信があるからね。それに、氷室ちゃんは有名人だろ?」

「知ってるんだ」

「一応ね、そういう情報に疎いお母さんとは違って、僕は、ほら、いろんなことを知るのが仕事だからね」

「なるほどな」


 チラッと隣の姫香を見るとお父さんの勢いに圧倒されてるように見えた。


「大丈夫か?」

「は、はい」

「まぁ、こういう両親だから、改めてよろしく。慣れるまでは大変だろうけどな」


 なんだかんだ2人とも癖強いし。

 たぶん。

 今度は姫香がお父さんみたいな自己紹介を始めた。


「あの、お久しぶりです。氷室姫香です。翔君の彼女をやってます。職業は学生兼モデルです。よろしくお願いします」

「うん。よろしくね」


 お父さんは微笑むと、歩き疲れただろう、と言って麦茶を入れてくれた。

 そのお茶を姫香は一気に飲み干した。

 そして、着替えてきますね、と言ってリビングから出て行った。


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