『④4人でプール』

 浮き輪を買った俺たちは流れるプールに向かった。

 流れるプールには俺たちの年齢の人達からお年寄りまでたくさんの人がいた。


「さすがに夏休みだな」

「ですね」


 姫香は浮き輪を使ってぷかぷかと浮かんでいた。

 たったそれだけの事なのに、姫香がやるとやっぱり絵になる。

 

「なんですか?」

「ん、可愛いなと思ってな」

「バカにしてるでしょ?」

「してないって。本心だよ」

「ならいいです」

 

 可愛いと言われて姫香は満足げな顔を浮かべた。

 その顔もまた可愛かった。

 俺たちはただただ流れに身を任せ流れるプールの中を漂っていた。


「気持ちがいいですね」

「そうだな。ちょうどいい温度だしな」

「ですね~」


 流れるプールは温水になっていて、お風呂に入っているみたいで気持ちが良かった。

 しかし、そろそろ泳ぎたくなってきた。


「なぁ、そろそろ泳いでもいいか?」

「あ、そうですよね。泳ぎたいですよね」

「まぁな。せっかく、プールに来たんだし」

「分かりました。普通のプールに移動しましょう」

「悪いな」

「その代わり、私に泳ぎを教えてくれませんか?」

「そうだな。一緒に泳ぐか」

「はいっ!よろしくお願いします」


 流れるプールから出て、俺たちは普通のプールに移動した。

 普通のプールは初心者コースから上級者コースに分かれていた。


「じゃあ、初心者コースに入るか」

「はい」

 

 さすがに普通のプールで浮き輪を使っている人はいなかったので、姫香も浮き輪を外していた。

 

「冷たい!」

  

 足先から入った姫香はプールの冷たさに思わず声をあげた。

 その冷たさにゆっくりと体を慣らしていき、俺と姫香はプールの中に入った。


「まずはどのくらい泳げるか見てもいいか?」

「はい。でも、あの、本当に泳げないので、笑わないでくれますか?」

「笑わないよ」

「じゃあ、いきます」


 姫香は不格好なバタ足をしてみせた。

 

「ど、どうですか?」

「うん。下手だな」

「だから言ったじゃないですか!」


 姫香は不服そうに頬を膨らませた。

 

「今度は俺が手を持つから、もう一回泳いでみよう」

「分かりました」

 

 俺は姫香の手を握って先導した。

 ゆっくりと姫香の泳ぎを改善しながら、進んでいった。

 徐々にコツをつかんできたのか、姫香の泳ぎはよくなってきていた。


「いい感じだぞ」

「ありがとうございます」

「そろそろ手を離すから、少し1人で泳いでみて」

「分かりました」


 俺は姫香の手を離した。

 さっきよりも数段マシになった泳ぎで姫香は25メートルプールを最後まで泳ぎ切った。

 

「やりました!見てましたか!翔君!?」

「うん。ちゃんと見てたよ」

「嬉しいです!」


 そう言って姫香は俺に近づいてきて抱き着いた。  

 

「ちょっと、姫香!みんなが見てるから!」

「だって、嬉しいんですもん!」

 

 本当に嬉しそうな笑顔で俺のことを見上げてくる姫香。

 その笑顔には勝てない。

 俺は、姫香の喜びを受け入れることにした。


「よかったな」


 そう言って、俺は姫香の頭を撫でた。

 

「はいっ!翔君のおかげです!ありがとうございます!」

「どうしたしまして」

「私は十分泳いだので今度は翔君が泳いできてください。私は近くで見てるので」

「うん。分かった」


 俺たちは初級者コースから出て、上級者コースに向かった。

 姫香はプールサイドで俺の泳ぎを見ているらしい。

 若干、心配はあったが、とりあえず泳ぐことにした。


☆☆☆

次回更新18時

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る