『③4人で花火』

 同時に線香花火に火がついた。

 俺たちは輪になって、誰が長く線香花火を保っていられるかを競っていた。


「こうやって、線香花火をするのって趣があっていいですね」

「だね〜!」

「しゃべってると線香花火の玉が落ちますよ。お嬢さん方」

「まだ、大丈夫だって。バチバチ言ってるし」


 俺たちの手に握られた線香花火はバチバチと音を鳴らして、オレンジ色の光を放っていた。

 まだまだ元気そうだ。


「それは分かんないぞー。落ちる時は一瞬だからなー」

「そんなことを言う人が1番先に落ちるんだよ」

「俺のはまだ大丈夫だって。こんなに大きい・・・・・・あ・・・・・・」


 歩の線香花火の玉が地面に落ちて光を失った。


「ほら言ったじゃん!」


 真美が歩のことを指差してケラケラと笑っている。

 それで、手元が揺れたのか、真美の線香花火の玉も地面に落ちて光を失った。


「あ〜!落ちちゃった〜!悔しい〜!」


 真美は悔しさのあまり、もう一本線香花火をつけようとした。


「真美さん、それは反則ですよ?」

「ぐっ・・・・・・」

「仕方ない。諦めろ」

「2人とも早く落ちちゃえ!」

「ふふ、私のはまだ落ちませんよ。これで、1対1ですね。翔君」

「そうだな」

 

 俺は出来るだけ手に振動を与えないように配慮した。

 少しの振動でも落ちてしまうからな。

 

「大きさ的には翔の方が有利そうね〜」

「そうだなー。でも、分かんないけどな。急に風が吹いたりしたら・・・・・・」

 

 歩がそう言った、ちょうどその時、ゆるやかな横風が吹いて、2人の線香花火がグラグラと揺れた。


「あ、落ちる・・・・・・」


 真美がそう言って、2人の線香花火の玉が同時に地面に落ちた。


「引き分け、ですね」

「みたいだな」

「え〜何それ面白くない〜!もう一回やろうよ!線香花火はまだ残ってるんだしさ!」

「真美は自分が勝ちたいだけだろ」

「バレたか!でも、本当にやらない?どうせ残ってても、捨てるだけだし」

「そうだな」

「そうですね。もう一回やりましょ。私も引き分けなんて納得できません」

「でしょ〜!はい、姫香ちゃん、どうぞ」

「ありがとうございます」


 線香花火は残り4本。泣いても笑ってもこれが最後の勝負だった。

 また、4人同時に線香花火に火をつける。

 誰もが1番先に落とさないようにと慎重だった。誰も話そうとしなかったし、風から線香花火を守るような姿勢をとっていた。

 それでも、勝負は決着する。

 なんと4人同時に線香花火の玉が落ちたのだった。


「私たちは仲良しか!」

「みたいですね」


 真美がツッコミ、姫香が楽しそうに笑う。


「まさか 4人同時とはなー」

「まぁ、そんなこともあるだろ」


 歩は驚き、俺は冷静だった。


「まぁいっか!今回の勝負は引き分けということで!あ〜楽しかったな〜!」

「私も最高に楽しかったです!また、来年もこの4人で花火やりましょうね!」

「そうだね。来年まで別れないようにしないとね!」

「縁起でもないこと言わないでください!」

「うそうそ、冗談だよ!もちろん、私たちが別れるなんて思ってないし、姫香ちゃんたちが別れるなんて思ってないから!」

「あたりまえです!」


 姫香は頬を膨らませて、プンプンと怒ったふりをした。

 そして、俺と腕を組んでくる。


「絶対に別れたりしませんからね?」

「分かってるよ。俺も離したりしないよ」


 そう言って、俺は姫香の頭を撫でた。

 姫香は嬉しそうに頭を腕にすりすりとしてきた。そんな姫香の頭を俺は反対の手で撫でた。


「まったく、花火より熱いわね!」

「だな。俺たちもするか?」

「し、しないわよ!今は・・・・・・」


 真美は少し照れ臭そうにして、歩と手を繋いだ。

 こうしてまた夏の思い出の1ページが刻まれたのであった。


☆☆☆

次回更新7/28(水)9時!

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