6月30日(水) 16:00〜

 学校が終わり放課後。


「じゃあまた明日ね〜」

「はい、また明日」


 校門で2人と分かれ氷室さんと一緒に下校する。

 

「翔君、今日も寄り道して帰りませんか?私、行きたいところがあるんです」

「ん、いいよ」

「ありがとうございます。実は昨日、スマホで懐かしいお店を見つけて」

「懐かしいお店?」

「はい。ここです」


 そう言って氷室さんが見せてきたスマホの画面に写っていたのは、俺も知っている、確かに懐かしいお店だった。


「へぇ〜。このお店まだやってるんだ」

「やっぱり、覚えてますか!?」

「まぁな」


 「ひろくん」と行った思い出のお店だからな。

 

「思い出のお店だからな。むしろ、姫香が覚えていることに驚いてるよ」

「そりゃあ、私にとっても思い出の場所ですから!」

「そっか」

「はい」


 氷室さんもそう思っていてくれたことが嬉しい。

 よく考えたら、俺はもっと昔から氷室さんと同じ時間を共有してたんだよな。

 勘違いしていたけど・・・・・・。

 俺たちは、その懐かしの駄菓子屋にいくために駅に向かった。

 その駄菓子屋は駅を2つ行ったところ、つまり俺たちの地元にある。


「てかさ、そこの店主のおばあちゃん、まだいるんかな」

「どうなんでしょう。あの頃、結構いい歳だったですもんね」

「もし、まだいるなら、俺、泣くかも」

「私も泣くかもしれません」


 電車に乗って、駅を移動した。

 久しぶりに降り立った地元の駅は懐かしかった。

 ここに来るのは今年の年末以来だ。 


「ここに来るの何年振りでしょう」

「そっか、姫香の家は今はここにはないんだっけ」

「はい。あの日、引っ越して以来なので、十数年振りですね」

「あはは、それだとあんまり懐かしさはないかもな」

「いえ、そんなことはないですよ。駅前の雰囲気はあんまり変わってません」

「そうか?結構、変わってると思うぞ?」


 さすがに10年以上も経てば変化はある。

 昔にあったお店はいくつかなくなって、新しいお店がいくつも並んでいる。

 もちろん、今も変わらないものもあるけど。


「まぁ、それはまた今度一緒に探索しよう」

「ですね!それ、楽しそうです!」


 駄菓子屋に向かう。

 数十年振りに行くのに自然と足が向かっていく。

 駅から歩くこと15分。

 駄菓子屋に到着した。


「ここ、ですね」

「そうだな」


 そこには、あの頃と変わらない店構えの駄菓子屋があった。


「やばい、泣きそう」

「ですね。私も感動してます」


 泣きそうになるのを我慢して、お店の中に入る。

 お店の中もあの頃とまんまだった。

 いろんな種類の駄菓子がところかしこに置いてある。


「懐かしい・・・・・・」

「ですね」


 その懐かしさにお互いしみじみと呟いた。

 お店の奥から1人の女性がゆっくりと歩いてきた。


「あ・・・・・・」


 その人のことは見覚えがあった。

 皺はあの頃よりも多くなって白髪はあの頃より少なくなっていたが、間違いないあの頃もいたおばあちゃんだ。


「いらっしゃい」


 おばあちゃんはにっこりと笑った。

 その笑顔はあの頃と変わっておらず、俺は我慢できなくなった。

 目頭が熱くなって頬に涙が流れた。


「お久しぶりです」


 俺は思わずそう言った。

 おばあちゃんはキョトンとした顔で俺のことを見ている。

 そりゃあ、覚えてないよな。

 それでもよかった。こしてまた会うことができたのだから。

 隣から鼻を啜る音が聞こえてきた。

 どうやら氷室さんも泣いているらしい。 

 

「なんだい、お店に入るなり泣きだして、ほらこれでも食べな」


 そう言って、おばあちゃんはポケットからいちご味のアメを2つ差し出した。

 昔もこうやってアメをくれたっけ。

 俺と氷室さんはおばあちゃんの手からアメを受け取って、包み紙を外すと口に放り込んだ。

 

「美味しい」

「だな」


 そのいちご味のアメはあの頃と変わらない味だった。


「すみません。ありがとうございます」

「落ち着いたかい?」

「はい」

「それはよかったね」

 

 そう言ってばあちゃんはもう一度にっこりと笑った。


「あの、ラムネってありますか?」

「ラムネかい?あるよ」

「2本もらってもいいですか」

「はいよ。ちょっと待ってな」


 おばあちゃんは店の奥にラムネを取りに行った。

 実はラムネはこの駄菓子屋の隠し商品だった。おばあちゃんに直接言わないと買えない。

 

「ラムネ、懐かしいですね」

「うん、せっかくだから飲もうと思って」

「この場所では色々ありましたよね」

「そうだね」


 おばあちゃんがラムネを2本持って店の奥から戻ってきた。


「2本で200円ね」

 

 200円と引き換えにキンキンに冷えたラムネを受け取った。

 1本を氷室さんに渡した。

 

「ありがとうございます」

「あんたたちは、ラムネのことを知っているってことは、ここに来たことがあるのかい?」

「はい。子供の頃に何度かお世話になりました」

「そうかい。また来てくれて、ありがとうね」

「こちらこそ、今も続けていてくれてありがとうございます」


 俺と氷室さんはおばあちゃんに向けてお礼を言った。


「後何年続けれるかね〜」

「あの、また来てもいいですか?」

「もちろんさね。私が生きているうちに来ておくれ」


 おばあちゃんは屈託のない笑顔でそう言った。まるで、死ぬことなんて怖くないと言った感じで。

 だから、俺たちも下手なことは言えなかった。

 

「はい、必ずまた来ます」

「待ってるよ」


 おばあちゃんにもう一度頭を下げると、俺たちは駄菓子屋を後にした。

 駅前まで戻って、ホームで電車を待った。


「おばあちゃん、生きててくれてよかったですね」

「そうだな。本当によかったよ」

「絶対にまた行きましょうね」

「だね。行こう」


 ラムネの栓をプシュッと押して開ける。

 ラムネの爽やかな匂いが鼻腔をくすぐった。

 氷室さんと乾杯を乾杯をして、キンキンに冷えたラムネを一気に飲み干す。

 俺は空になったラムネの瓶を夕日に向けた。

 ラムネの瓶の中にオレンジ色が収まり幻想的な光を放っていた。

 あの頃と変わらないものがここにもあった。


「私たちもずっと変わらないでいましょうね」

「そうだな」


 氷室さんはまるで俺の心の中を読んだかのようにそう言った。

 電車が駅のホームに到着して、俺たちは今、住んでいる街へと帰っていった。

 

                  第1章 了


☆☆☆


ここまでご愛読いただきありがとうございました。

書き始めた当初はまさかこの作品が、ここまでたくさんの方に応援してもらえる作品になるとは思ってもいませんでした。

本当に感謝してもしきれないくらい幸せなきもちでいっぱいです。

皆様の応援のおかげでここまで書くことができました。

ですが、2人の甘々なラブコメはここから始まります😏

どうかこれからも温かい目で読んでいただけると嬉しいです!

本当にありがとうございました☺️


次回更新は7/26(月)!

夏休み編スタートになります!

お楽しみに〜✨


の前に18時にサプライズ投稿あり!笑

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