6月29日(火) 16:00〜

 朝の気まずさは放課後まで続いた。

 そんな幸せな気まずさを抱えながらも俺たちは一緒に下校をしていた。

 一緒に下校は何度もしているはずなのに、やはりいつもと違う。

 そう思いながら氷室さんの家に向かってゆっくりと歩いてく。

 会話もほとんどなく半分まで来てしまった。

 これから先もこれが続くのだろうか、それとも徐々に慣れていくのだろうか。氷室さんが彼女だということに。

  

「ちょっと、寄り道して帰りませんか?」


 氷室さんがそう言って俺は無言で頷いた。

 

「あの公園に行きましょう。私たちが再会を果たしたあの公園に」

「・・・・・・うん」


 あの公園に向かうことになった。

 ナンパにあっていた氷室さんの手を引っ張って、逃げ込んだあの公園へ。

 公園についてすぐ、俺たちはベンチに座った。

 2人の距離は拳1つ分くらいのスペースが空いていた。


「ここに来るのも随分と久しぶりな気がします」

「俺もだ」


 1年生の頃はよく通っていたのに、氷室さんとの再会を果たしてからは1度も足を運ぶことはなかった。特に理由があるわけではない。ただ、なんとんなく、俺の中でこの公園は特別な場所のよう位置付けていたんだと思う。

 そう思っていたら氷室さんが同じようなことを言った。


「私にとってこの公園はとても大切な場所です。翔君と再会をしてから、なんだか私の中でそんな位置付けを勝手にしてました。だから、あんまり無闇に足を踏み入れたくはないと思ってたんです」

「俺も、同じことを思ってた」

「そうなんですか?」

「うん」

「・・・・・・嬉しいです。翔君も同じことを思っていたなんて」


 氷室さんはしみじみとそう呟いた。


「なんだか、緊張していたのが、バカらしくなってきました。せっかく翔君と同じ時間を共有してるのに、こんなことで無駄にしてしまってはもったいないですね」


 そう言って氷室さんは立ち上がった。


「なので、やっぱり遠慮しないことにします!」


 氷室さんは声高らかにそう宣言した。


「あはは、何その宣言」

「あー。なんで笑うんですかっ!」

「いや、可愛いなと思って」

「だから!それ言うの禁止ですってば!」


 氷室さんは頬を膨らませた。

 そこにはもう緊張している氷室さんはいなかった。

 その後は俺も徐々に緊張が解けていって、いつも通り話せるようになっていった。

 

「せっかく、久しぶりに来たので少し歩いて帰りませんか?」

「そうだな。そうするか」


 公園内には散歩コースがあって、俺たちはそこを歩いた。

 両側には木々たちが聳え立っていて、避暑地みたいな感じで涼しかった。

 さっき氷室さんが言っていたが、俺たちは今、同じ時間を共有している。

 思えばそれは2年生になった時からそうだった。

 あの頃はただのクラスメイトだった。しかし、今は違う。俺たちは恋人同士になった。想い人になった。

 きっと、クラスメイトの氷室さんと共有する時間と恋人の氷室さんと共有する時間の価値は違うだろう。

 恋人の氷室さんと共有する時間の方がはるかに価値があるはずだ。

 氷室さんは、「無駄にしたくない」と言った。それは、俺もだった。このかけがえのない時間はいつ途切れるか分からない。だからこそ、時間をこうして共有できている、今を大切にしないといけないのだろう。

 今というこの瞬間は常に変わりつつあるのだから。


☆☆☆

次回更新7/8(木)9時!


残り0日・・・・・・。

明日で一旦の投稿はラストになる予定です!

それに伴って、明日は5話くらい投稿予定!

ゆっくり、気長に読んでやってください☺️

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