6月28日(月) 6:30〜『王野の返事』

 いつもより早く学校に行き、俺は氷室さんが来るのを待っていた。

 どんな言葉を言おうか・・・・・・。

 昨日の夜からずっとそのことばかりを考えていた。

 一睡もできなかった、というわけではないが、ほとんど寝ていなかった。

 今も少しうとうとしている。

 しかし、寝るわけにはいかない。

 氷室さんに返事を返すまでは・・・・・・好きと伝えるまでは・・・・・・。

 眠い目を擦りながら、なんとか眠気に打ち勝った。

 氷室さんが教室にやってきた。


「お、おはようございます」

「お、おはよう」


 お互いにぎこちない挨拶を交わす。

 氷室さんは俺の顔を見ることなく、自分の席に一直線に向かった。

 顔を合わせるのが気まずいという感じではなく、恥ずかしいという感じだった。

 それは、俺も同じだった。

 まともに氷室さんの顔を見れない・・・・・・。

 気持ちを伝えるのってこんなに緊張するんだな。氷室さんは凄いな。

 そんな氷室さんの気持ちにちゃんと応えないといけないよな。

 俺は大きく深呼吸をして、氷室さんの名前を読んだ。


「氷室さん・・・・・・」

「・・・・・・は、はい」


 氷室さんがこっちを向く。

 一点の曇りのない深紅の瞳が俺のことを見つめている。氷室さんの頬はほんのりと赤い。


「えっと、その・・・・・・」


 どう話を切り出せばいいのだろうか・・・・・・。

 氷室さんに伝えたい言葉が頭に浮かんでは消えていった。

 そして、最後に残ったのはシンプルなこの言葉だった。


「・・・・・・俺も氷室さんのことが好きだ。だから、これからも一緒にいてくれませんか?」


 若干プロポーズぽくなってしまった俺の言葉を聞いた氷室さんは一瞬固まった。次第にじわじわと深紅の瞳に涙が浮かび上がってきた。

 そして、氷室さんは微笑んでこう言った。


「はい。これからもよろしくお願いしますね。翔君」


 初めて名前を呼ばれたことに驚いていると、氷室さんが俺の方に小走りで向かってきて、勢いよく抱き着いてきた。


「翔君のことが大好き!」

「俺も好きだよ」


 俺はしっかりと受け止めて、氷室さんの背中に手を回した。

 もう、2度と離さないようにと。

 その瞬間、教室は幸せなオーラで包まれていた。

 窓から差し込む朝日が、まるで天からの祝福のように感じた。

 そんな幸せオーラいっぱいの教室に入ってきた2人の生徒がいた。


「おめでとう2人とも!」

「おめでとう!」

「真美さんに山崎さん・・・・・・」

「どうして2人が・・・・・・」

「どうしてってずっと見てたからだよ〜!」


 真美が悪戯が成功した時の子供のような笑顔で言った。

 氷室さんは俺に抱き着いていることが恥ずかしくなったらしく離れた。


「ずっとっていつからだよ・・・・・・」

「それはね〜。『俺も氷室さんのことが好きだ・・・・・・』のところから〜」


 真美は俺の声真似をしながら行った。

 ほぼ最初からじゃねぇか!?

 2人に見られていたということを知って急に恥ずかしくなってきた。


「い、いたなら入ってこいよ・・・・・・」

「だって〜。ね〜」

「そうだな〜。翔が今日、返事をするのは分かってたし、邪魔したら悪いじゃん?」


 そう言って『バカップル』は顔を見合わす。

 俺たちに気を遣ってくれたってことか。だからって、覗き見を許すつもりはないけどな。


「お前ら、後で覚えとけよ・・・・・・」

「せっかく気を遣ってあげたのに〜」

「なら、覗き見すんなっ!」

「だって、どうなるか気になるじゃん!こんな一大イベント見ないわけにはいかないでしょ!」


 真美は悪びれる様子もなく言う。


「王野君もういいじゃないですか」

「でもなー」

「後でたっぷりとお仕置きしましょう」


 どうやら、氷室さんも恥ずかしかったらしい。いつもなら、絶対に言わないようなことを言っていた。


「姫香ちゃん〜。ごめんってば。許して〜」

「今回ばっかりは許しませんっ!」


 氷室さんはぷいっとそっぽを向いた。

 真美は俺に助けを求めてくる。


「翔〜。なんとかして〜」

「知らん」


 そう言って俺もそっぽを向くと、氷室さんと目が合った。

 なんだろうなこの気持ち・・・・・・。

 目が合っただけなのに、心臓がドキドキと幸せな音を鳴らしていた。

 それからしばらく俺たちは見つめ合っていた。


☆☆☆

次回更新7/7(水)9時!


ついに、付き合い始めた2人!

これから、もっと甘く甘い物語を書いていく予定!笑

なので、これからもよろしくお願いします!

ちなみに、第1章は残り7話になります!

最後までお楽しみを☺️

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