6月26日(土) 16:00〜『突然の告白』
それから、氷室さんが目を覚ましたのは1時間後のことだった。
「よく寝ました」
そう言って氷室さんは大きく伸びをした。
「一応言っとくけど、何もしてないからな」
一応、弁明しておくことにしておいた。
疑われても嫌だからな。
「もちろん、分かってますよ」
氷室さんは立ち上がった。
そして、こっちを振り返り言った。
「別に何かしてくれてもよかったのですよ?」
その口元は妖艶に微笑んでいた。
「はっ!?な、何言ってんだよ!?」
「別に王野君になら、何されても構いませんし」
氷室さんはそう言いながら、くるっと回った。
花柄のワンピースがふわっと宙に舞った。
「か、からかうなよっ!」
「まぁ、そういうことにしといてあげましょう」
氷室さんは意味の分からない言葉を言い残すと、サンダルを脱いで海に向かって走り出していった。
「きゃっ!冷たい!王野君も、ほら、来てください!」
「いや、俺はやめとく。靴だし」
「えー。残念です」
と言いつつ俺は波が届かないギリギリのところまで歩いて行った。
「俺はここで眺めとくよ」
「いいんですか?そんな近くに来て。こうしますよ?」
氷室さんはニヤッと笑って、俺に水をかけてきた。
「おい!やめろって」
「やめませんっ!王野君が一緒に入ってくれないのが悪いんです〜」
そう言って、もう1度氷室さんは水をかけてきた。
さすがに、俺は退散した。
「もぅ〜。そんなに離れたら届かないじゃないですか」
「届かないように離れたんだよ」
しばらく海に足だけ浸かっていた氷室さんは1人でいることに飽きたのか、休憩所まで戻ってきた。
「おかえり」
「ただいま」
「楽しかった?」
「それ聞きます?誰かさんが一緒に入ってくれないから、あんまり」
「それは、悪かったな。次はちゃんと入るから」
「なら、許します」
サンダルを履き直した氷室さんが俺の隣に座った。
「そろそろ、帰りましょうか」
「そうだな」
「王野君」
氷室さんが俺の方を向いて改まって名前を呼んだ。
「は、はい」
「向こうの駅に着いたら、お話があるので少し時間もらえませんか?」
「わ、分かった」
話ってなんだ・・・・・・。
氷室さんはもの凄く緊張しているようだった。その緊張は俺にまで伝染し、俺はがぎこちない返事になった。
帰りの電車の中で、俺と氷室さんは一言も話すことはなかった。
そして、最寄駅に到着した。
氷室さんと一緒に改札を出る。
「王野君・・・・・・」
「はい」
「王野君と再会して、そろそろ1ヶ月が経ちますね」
「そう、だな」
俺たちは駅前にある、ベンチに座った。
「小さな頃に離れ離れになった時はもう会えないと思っていました」
「うん。俺も思ってた」
「でも、会えました。まさか会えるなんて思ってもいませんでした」
それは、俺も同じ気持ちだった。
「何度も諦めようって、もう会えないんだから、諦めようって思いました」
氷室さんは大きく深呼吸をした。
まるで、気持ちを整えるみたいに。
「でも、無理でした・・・・・・。再会して、やっぱり私は好きなんだってことに気がつきました」
「・・・・・・」
「私は・・・・・・私は、王野君のことが・・・・・・好きです」
「・・・・・・」
「この気持ちに嘘をついて、諦めるなんてできません。私は、王野君の恋人になりたい・・・・・・いつまでも一緒にいたい。この返事は今すぐじゃなくても構いません。私は、待ってますから」
氷室さんはそう言うと、頭を下げて走っていってしまった。
その背中を追いかけて後ろから抱きしめたかった。
でも、無理だった。俺は気持ちの整理が追いついていなかった。
あまりにも唐突すぎて、あまりにも驚きすぎて、そしてなにより、氷室さんが俺と同じ気持ちでいてくれたことが嬉しすぎて、俺は氷室さんの告白をただ聞くことしかできなかった。その後ろ姿を眺めることしかできなかった。
「・・・・・・俺だって好きだよ」
ようやく絞り出しその言葉は氷室さんに今は届かなかった。
☆☆☆
次回更新7/6(火)9時!
残り3日・・・・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます