6月17日(木) 13:00〜

 氷室さんが部屋から出ていくと、俺は氷室さんが戻ってくるまで目を瞑って待つことにした。

 それにしても、まったくの予想外だった……。

 学校が終わってからお見舞いに来ると思っていたのに、まさか早退して来てくれるとは……。

 最近の氷室さんは妙に積極的だ。別にそれが嫌ってわけじゃないが、なんというか、心臓に悪い。

 さっきのだって、あのまま氷室さんと見つめ合っていたら、俺はどうなっていただろうか。こんな状態じゃなかったら抱きしめていたかもしれない。

 

「まったく、自分がどれだけ可愛いのか自覚がないのかよ……」


 身長が低くて弱虫で人見知りだった「ひろくん」から随分と変わったものだな。身長が小さいのは今もあんまり変わらないが、女性らしさはあの頃に比べると何百倍も増している。

 

「今や、有名モデルだもんな……」


 そこに至るまでに一体どれだけの努力を積み重ねてきたんだろうな。

 髪の毛なんて細部までしっかりと手入れが行き届いていて、肌はスベスベで丁寧にケアしているのが目に見えて伝わってくる。

 そもそも、なんで氷室さんはモデルになろうと思ったのだろうか。これはずっと不思議に思っていることだった。

 確かに見た目は抜群に可愛いし、スタイルも、まぁ低身長ということを除けば抜群にいい。

 だけど、昔の弱虫で人見知りな「ひろくん」からは申し訳ないけど、想像もできない。


「人前に出ることはあんまり得意じゃないはずなんだけどな……」

 

 だから、辛くなってやめるとか言ったのか。

 もしかしたら相当無理をしていたのかもしれないな。

 俺にできることはたいしてないだろうが、せめて氷室さんが辛くない道を選べるように手助けくらいはできるといいな。

 そう思ったところで部屋の扉がノックされた。


「入りますよ~」

「いいぞ」


 俺は目を開けてそう言った。

 ゆっくりと扉が開いて、氷室さんが部屋の中に入ってきた。

 その手にはおぼんを持っている。


「お待たせいたしました。起きれそうですか?」


 俺は体に力を入れてゆっくりと起き上がろうとした。

 しかし、思ったようにうまく起き上がれなかった。どうやら、予想以上に体調は悪いらしい。

 それを見かねた氷室さんはおぼんを床に置いて俺の手を握った。


「大丈夫ですか?引っ張りますよ?」

「あぁ、ありがと」


 氷室さんの真っ白で小さな両手が俺のことを引っ張る。

 自分でも、もう1度力を入れた。起き上がった俺は壁にもたれかかった。


「おかゆ、食べれそうですか?」

「どうだろうな。食べてみないと、分からん」


 氷室さんがおかゆをスプーンで一口掬って、ふうふう、している。

 そして、肌温くらいに冷めたおかゆを俺の口に近づけてきた。

 さすがに、照れている余裕もなく、俺はパクッと差し出されたおかゆを食べた。

 塩加減のちょうどいい美味しいおかゆだった。体が自然と温まってくる。

 柔らかさもほどよく、飲み込むのも大丈夫そうだ。


「どうですか?」

「うん。なんとか食べれそう」

「そうですか」


 氷室さんは安堵の表情を浮かべ、二口目のおかゆをスプーンで掬って、さっきと同様に食べさせてくれた。

 その後、氷室さん特製のおかゆを完食して、家にあった市販の薬を飲み再び眠りについた。


☆☆☆

次回更新予定

6/26(土)18時!

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