6月17日(木) 12:00〜
それから、お昼過ぎまで眠っていた。
熱のせいか、幻覚が見える……。
絶対に家にいるはずがない氷室さんが俺の部屋の中にいた。
「なんで……」
呟いた声は思った以上にガラガラだった。
「あ、王野君。起きられたのですね」
「どうして、氷室さんが……?」
「無理に声出さなくてもいいですよ。何なら、LIMEで話しますか?」
いつだったか、俺が言ったことと同じこと氷室さんが言った。
「それ、俺が言った……ごほ、ごほ」
「覚えてましたか。あの時とは逆になりましたね」
氷室さんはニコッと笑って俺を見下ろしていた。
話を逸らされたけど、どうして氷室さんが俺の家に……。
家を教えたことはなかったはずだけど。
「そんなことより、なんで氷室さんが家に?」
「それはですね。真美さんに聞いちゃいました。テスト勉強と引き換えに」
氷室さんは、ダメでしたか?と首を傾げた。
こんな状態じゃなかったら、何を勝手にとか思ってたんだろうけど……。
今は、むしろ来てくれたことが有難いと思っていた。きっと一人だと、ご飯もろくに食べれなかっただろうからな。
それにしても、真美のやつ……。
「よく覚えてたな」
「なんでも、王野君の家の場所を地図アプリでマーキングを付けているそうです」
「マジかよ……」
「なので、私もしておきました!」
「なん……!?ごほ、ごほ……」
氷室さんが見せてきたスマホの画面には地図が表示されていて、赤いピンがちょうど俺の家のところに刺さっていた。
まぁ、俺も氷室さんの家を知っているからいいんだけどな。
そこまでする……!?
真美のやつもなんでそんなことを……元気になったら問い詰めないとな。
「ところで、氷室さん、学校は?まだお昼過ぎだろ……」
「もちろん、早退してきましたよ!」
「いやいや、わざわざ俺のためにそこまでしなくても」
「王野君のためだから、早退してきたんです!」
ぶぅ、と頬を膨らませて顔を近づけてきた氷室さん。
やめてくれ……熱が上がってしまう……。
俺は布団を顔まで被って氷室さんの視線を遮った。
「何で隠れるんですかっ!」
「は、恥ずかしいからに決まってるだろ!」
「恥ずかしがっている王野君、可愛いですね!」
「か、可愛いとか言うな!」
「さて、可愛い王野君も見れましたし、おかゆでも作りますね。食欲はありそうですか?」
「たぶん……」
「そうですか。とりあえず作ってくるので食べれそうだったら食べてください」
「なんか、悪いな」
俺がそう言うと、氷室さんは俺の口に人差し指を当ててこう言った。
「こういう時は素直に好意を受け取っておくものです。それと、王野君の口から聞きたいのは謝罪の言葉じゃなくて、感謝の言葉ですよ?」
「はむっ」
氷室さんのまっすぐで純粋な言葉を聞いていた恥ずかしくなって、俺は口に当てられていた氷室さんの人差し指を甘噛みした。
氷室さんは一瞬何をされたのか、分かっていない様子だった。だが、すぐに自分がされたことに気が付くと、顔をゆでだこのように真っ赤に染め上げて大きな声を上げた。
「な、何するんですか!!!?」
「ありがと。おかげで元気になれそうだよ」
「うぅ……ずるいです……こっちが恥ずかしいじゃないですか……」
氷室さんは何かをぼそぼそと呟くと部屋の扉に手をかけた。
「ちゃんと手、洗ってな」
「わ、分かってます!そ、それじゃあ、おかゆ作ってきますね!」
勢いよく部屋の扉を開けて、逃げるように俺の部屋から出て行った。
☆☆☆
次回更新予定
6/26(土)14時!
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