6月13日(日) 12:00〜

 氷室さんが行きたいと言っていたパスタ屋さんには行列ができていた。

 

「結構人がいますね」

「人気店なのか?」

「どうなんでしょう?最近できたばかりのお店らしいです」

「とりあえず、並ぶか」

「そうですね」

  

 俺たちはお店の前にできていた行列に最後尾に並んだ。


「ところで氷室さん。そろそろ手、離しても?」

「もちろん、ダメですよ?」

 

 もちろんなんだ……。

 てかさ、これって絶対にバレてるよね?

 なんだか、さっきから周りの視線を集めている気がする。

 だが、その視線を集めている張本人は気にする様子もなく、俺に話しかけてくる。


「王野さんは、何パスタが好きですか?ここはいろんなパスタがあるらしいですよ!」


 そう言って、手を繋いでない方の手でスマホを操作して、パスタ屋のホームページを見せてきた。


「私はこの魚介たっぷりパスタというのが気になります!王野さんはどれが気になりますか?」

「そ、そうだな……これとか?」 


 って、パスタどころじゃないんだが……。

 顔が近いし、胸も若干当たっているような気がするし、手も柔らかいし……とてもじゃないがパスタのことを考えている余裕なんてなかった。

 それから30分くらい経って、ようやくお店の中に入れた。


「やっと入れましたね~」

「そうだな」

「もう、お腹ペコペコです」」

「俺も」

「早速頼みましょうか!」


 席に座るとすぐに氷室さんは店員を呼んだ。

 お店に入る前に決めたパスタをそれぞれ頼んだ。


「早く来ないですかね~」

「そんなにすぐには来ないだろ。これだけ人が入ってると」

「そんなことは分かってますよぅ~」


 氷室さんは頬を膨らませて、お冷を一口飲んだ。


「ずっと来たかったお店なのでワクワクしてるんです」

「楽しそうだな」

「楽しいですよ!」


 店内に入っても視線をチラホラと感じなくはないが、やっぱり氷室さんは気にする様子は見られなかったので、俺も気にはしなかった。

 

「お待たせいたしました~。魚介たっぷりパスタとカルボナーラです~」


 だらだらと氷室さんと話をしていたら、パスタが運ばれてきた。

 魚介たっぷりパスタは、その名前の通り数種類の魚介がたっぷりと入ったパスタだった。

 カルボナーラの方はシンプルだった。ベーコンがたっぷり入っていて、胡椒がパラパラとかけられている。クリームが濃厚そうだ。


「美味しそう~!早く食べましょう!王野さん!」

「そうだな。食べよう」


 いただきますをして、パスタにフォークを入れた。

 くるくると回して、パスタをフォークに巻き付ける。思っていた通り、クリームが濃厚でしっかりとパスタに絡みついていた。

 そのまま、口に運ぶ。


「うまっ……」


 あまりにも美味しすぎて、素直な言葉が口から零れ落ちた。

 もう一口パスタを口に運んだ。

 そんな俺を氷室さんは嬉しそうに見つめていた。

 

「な、何?」

「いえ、おいしそうに食べるな~と思いまして」

「あんまり見つめられると食べにくいんだが?」

「お気になさらず」


 氷室さんは楽しそうに、うふふ、と笑った。

 いや、気になって食べれないんだけど!?

 こんな美少女に見つめられながら、ご飯が食べれるわけないだろ……。


「氷室さんも食べたら?」

「そうですね」

「見ててあげるから」

「え!?ダメです!見ないでください!」


 昨日から散々ドキドキさせられたからな、ここらへんで仕返しをしてやろうと思った。


「ほら、早く食べなよ」

「うぅ……意地悪です……」

「先にやってきたのは氷室さんだろ?」

「それは……やっぱり、意地悪です……」

 

 氷室さんは顔を真っ赤にしながら、魚介たっぷりパスタを口に運んだ。

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