6月12日(土) 17:00〜

 車が走り出すとすぐに氷室さんは眠ってしまった。しかも俺の方に頭をコテンっと乗せてすやすやと気持ちよさそうに。


「あら、寝ちゃったのね。珍しいわね〜」

「そうなんですか?」

「うん。よっぽど疲れたのか、彼氏君のことをよっぽど信頼してるのか、どっちもなのかな」


 信頼か・・・・・・。

 氷室さんの寝顔を見るのはこれで2度目だな。

 氷室さんと話すようになってまだそんなに日が経ってないのに、まさかこんなことになるなんて想像もしていなかった。

 きっと、氷室さんも一緒に映画に出ることになるなって思ってなかっただろうな。てか、冷静に考えたらヤバいな・・・・・・。


「俺が映画に・・・・・・」

「なんか、ごめんね。王野君を巻き込んじゃんって」


 俺の呟きに唯香さんがそう言った。


「あの監督、ちょっと強引だからね〜」

「いや、強引すぎますよ」

「でも、あれがあの人のよさだからね〜。それに王野君の演技かっこよかったよ。あれは、姫香ちゃん、惚れちゃったね!」

「なっ!?ないですよ、そんなの・・・・・・」


 むしろ、俺が氷室さんの演技に惚れそうだった。いつもの雰囲気とはまるで違う氷室さんは凄く新鮮だった。


「じゃあ、逆?」


 まるで、俺の心の中を呼んだかのように唯香さんは言った。


「ど、どうでしょう?」

「動揺が怪しいな〜」

「いいじゃないですか、俺のことは。それより、あの映画はいつ公開されるんですか?」

「話を逸らすとは、ますます怪しい〜。まぁ、いっか。あの映画はね、12月15日公開予定だよ」

「半年後・・・・・・忘れていそうですね」

「そこはほら、カレンダーにでも記入しといたら?」

「ですね。帰ったらそうしときます。唯香さん。やっぱり、先に氷室さんの家にお願いしてもいいですか?」

「そうね。分かったわ」


 進路を変更して氷室さんの家へと向かった。

 よほど疲れているのだろう。家の前に到着しても氷室さんは起きる気配すらなかった。


「どうしましょうか?」

「そうね〜。これ使う?」


 そう言って、唯香さんが俺に差し出してきたのは合鍵だった。


「それって氷室さんの家の・・・・・・」

「そう。合鍵。これ貸してあげるから、姫香ちゃん家まで運んであげて」

「え、せめて、唯香さんもついてきてくれませんか?」

「えー。2人の邪魔しちゃ悪いし〜。それに、私仕事残ってるから、早く帰らないといけないんだよね〜」

「はぁー!家まで送ってくれんじゃないんですか?」

「いいんじゃない?姫香ちゃんの家に泊まれば」

「そんなこと、マネージャーが言っていいんですか?」


 どうやら、ここにも嵐のような人がいたようだ。

 自分が何を言ってるのか、分かっているのだろうか。いや、分かってて言ってるんだろうな。この人は・・・・・・。


「1回も2回も変わらないって!」

「いや、そういう問題じゃなくて、ですね」

「ほら、いったいった」


 そう言って、唯香さんは、手をひらひらとさせた。


「分かりましたよ」


 俺が氷室さんと一緒に降りるまで、話は進まないらしい。

 俺は車から降りると氷室さんをお姫様抱っこをした。その時、氷室さんが薄っすらと目を開けたよに見えた。

 もしかして、氷室さん起きてる?

 

「今日は本当にお疲れ様。その鍵は姫香ちゃんにでも渡しといてくれたらいいから」

「わ、分かりました」


 唯香さんの車を見送ると、俺はマンションの中に入っていった。

 1度氷室さんの家にはいったことがあるので、何階なのかは知っている。

 流石に階段で上がるのはキツそうなので、エレベーターを使うことにした。


☆☆☆

次回更新14時です〜

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