6月12日(土) 16:00〜

 体育館裏。

 仮面の選手とマネージャーは向き合って立っていた。2人の間には緊張の空気が漂っている。

 これから、仮面の選手はマネージャーに告白をする。


「姫乃さん。私が誰だか分かってますよね?」

「・・・・・・はい」

「だよな」

「顔は隠せても声は隠せないもんね」

「・・・・・・」


 そこで、仮面の選手は無言になった。


「王野さん?王野さんのセリフですよ」

「はい、カット!」

「すみません」


 セリフを忘れたわけじゃない。

 ただ、思ってしまったんだ。


「やっぱり、キスシーンはカットしてもらえませんか?」

「え・・・・・・」

「どうしたのかな?いきなり」


 監督は怪訝そうな顔で俺のことを見ている。

 そりゃあ、そうだ。俺はわがままを言っているのだから。

 それでも、やっぱりやめるべきだ。それが、初めてならなおさら・・・・・・。


「私を納得させられるだけの理由があるなら考えてもいいよ?」


 俺は監督の近くに行って耳元で言った。


「その、初めてなんです・・・・・・。もちろん、氷室さんが嫌、っていうわけじゃないんです。でも、なんていうか、こういうのって大事にしたいというか、大切にしたいというか、監督には申し訳ないんですけど、映画のワンシーンでしたくはないんです」

「ふーん。なるほどね。君は姫香ちゃんのことを大切に思ってるわけだ!」

「ちょっと、声が大きいですってば!」


 俺は後ろを振り返った、幸いにも氷室さんには聞こえていないようだった。きょとんとした顔で俺のことを見ていた。


「君、青春してるね〜!分かった、キスシーンはやめてあげる。でも、ちゃんと告白のシーンはこなしてね?」

「ありがとうございます。が、頑張ります」


 それも、かなりハードル高いんだが、妥協点といったところだろう。さすがに、告白シーンまで無くなってしまったら、映画の見どころがなくなってしまうからな。


「よーし、じゃあ再開するよー!」


 監督が一声かけ、撮影が再開する。


「王野さん、監督と何をお話しされてたんですか?」

「それは、言えない。ただ、キスシーンはなくなったってことだけど言っとく」

「そうですか・・・・・・残念です」

「え?」

「いえ、なんでもありません。気を取り直して、ラストシーン頑張りましょう!」


 そして、本当にラストのシーンの撮影が始まる。

 

☆☆☆

次回更新は6/19(土)18時になります!

☆500突破しました〜☺️

☆をつけていただいた皆様ありがとうございます!

これからもよろしくお願いします☺️

まだまだ続きますよ〜

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