6月12日(土) 13:30〜
「か、監督!?」
「姫香ちゃん。勝手にやめるのはダメ。ここまで一生懸命頑張ってきた人たちの思いを踏みにじるようなことはしちゃダメ」
「で、でも、私、知らない人とはキスしたくないです」
「じゃあ、知ってる人ならいいの?」
「そ、それは……」
氷室さんが俺のことをちらっと見て、監督がニヤッと笑って俺のことを見た。
なんだか、監督のその笑顔を見て嫌な予感がした。
「実はさ、主演の子がバカなことやって、足を怪我したんだよね~。だからさ、君、代役やってくれない?」
「「えーーー!」」
俺と氷室さんは同時に声をあげた。
「いいじゃん!息ピッタリだね!代役は君で決まり!」
監督は颯爽と現れて、そう言い残して颯爽と去っていった。
やっぱり、嵐みたいな人だ……。
残された俺たちは、ぽかんと口を開けてお互いに顔を見合わせていた。
「えっと、どうすればいい?」
「それは、私に聞かれても……」
「だよな」
「はい」
ベンチに座っていてもどうしようもないということで、とりあえず唯香さんを探すことにした。
唯香さんはバスの前にいて、監督と何かを話していた。
「あ、来た来た!もう少し待ってね!」
「ちょっと待ってください。俺、まだやるなんて一言も……」
「姫香ちゃんと、キス、したくないの?」
監督が俺の耳元で悪魔の囁きをした。
「それは……」
「男を見せるんだ!えっと……」
「王野です」
「王野君!」
そう言って、バシッと俺の背中を叩く。
この人は本気だ。本気で言っている。それにきっと俺がどれだけやらないって言っても、この人は聞かない。そんな気がした。
「で、どうする?やるかい?もちろん、ちゃんと君の顔が出ないように配慮はするつもりだよ。私としては、君を俳優デビューさせてもいいと思ってるだけどね」
「それは勘弁してください。分かりました。その代わり、ちゃんと顔が出ないようにしてくださいね」
「もちろんだよ!」
もう、この際、流れに身を任せることにする。
それに氷室さんと……。俺の中に少しだけ、そんなふしだらな気持ちが芽生えていた。
「王野さん、本気ですか?」
「うん」
「それって、つまり……私と、キス、するってことですか?」
「そ、そうなるかもね」
「うぅ……」
氷室さんは顔を真っ赤にして、逃げるようにバスの中に入っていった。
「あんな、姫香ちゃん初めて見たかも。やるね、彼氏君!」
「だから、もういいです、それで……」
「王野君、準備があるから少し待ってて」
「分かりました」
監督は何か準備があるらしく、どこかへ行ってしまった。
唯香さんも氷室さんのお化粧直しをするためにバスの中に入っていった。俺は待つしかできないかったので、さっきまで座っていたベンチに座って待つことにした。
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