6月12日(土) 11:00〜

 しばらく歩いてわかったこと。

 それは、この撮影がかなりの大掛かりだってことだ。

 ドラマ撮影で使われるような大きなカメラに長い棒状にもこもこのついたマイク。それに、かなりの人数のスタッフ。

 もちろん、俺は芸能界のことなど何も知らないから、これが普通のことなのかもしれないけどな。

 そんな中でも俺が気になったのはカゴいっぱいに入ったサッカーボールとユニフォームを着た人たち。

 ここでサッカーの試合でもあるのか?

 そう思っていると、どこからか声が聞こえてきた。


「今日は我々のチームが勝たせてもらいます」

「はっ。今日も勝つのは俺たちのチームだぜ」


 その言葉はどこかセリフ染みていて、まるで、映画の中の登場人物のような、そんな感じがした。

 その後もいくつか言葉が交わされていた。


「まぁ、こんな感じですかね」

「そうですね。後は本番で・・・・・・」


 それっきり、2人の声は聞こえなくなった。

 なんだったんだ?

 まぁ、いいか。それにしても、氷室さんたち遅いな。

 ちょうど、いいところにベンチがあって、俺はそこに座って氷室さんたちが来るのを待つことにした。


「あ!待って〜!」


 スマホを触りながら、2人が来るのを待っていると、サッカーボールとそれを追いかける女性がこっちに向かってきていた。

 サッカーボールは俺めがけて一直線だった。ちょうど、足元まで来たところで、俺はひょいっと器用にサッカーボールを蹴り上げ、キャッチした。


「うわぁ〜!上手ですね」

「はい。どうぞ」

「ありがとうございます。サッカーお上手ですね!それにお顔もイケメンだぁ!」


 な、なんなんだこの人!?距離感めっちゃ近っ!?顔がすぐ近くに・・・・・・。

 めっちゃ美人だな。それに、いい匂い・・・・・・。

 じゃなくて!?

 

「な、なんなんですか、一体?」

「あ、ごめんね〜。サッカーボールで遊んでたら、転がっていっちゃって。てへっ!」


 てへって・・・・・・。

 それにサッカーボールで遊ぶって・・・・・・

 外見は大人っぽいのに中身は子供か!?

 

「えっと、あなたは?」

「あ!もう、時間だ!行かないと!ごめんね〜。また後で、自己紹介するから〜」

「後でって・・・・・・」


 俺は関係者じゃないんですけど・・・・・・。

 嵐のようなその女性は俺に戸惑いだけを残して去っていった。

 そして、入れ替わるように氷室さんがやってきた。


「王野さん。やっと見つけました」

「氷室、さん・・・・・・」


 目の前に立っている氷室さんは全くの別人だった。

 いつもの制服とは違う可愛らしい制服に身を包み、髪型も今まで1度も見たことのないツインテール。

 メイクをバッチリとしていて、めっちゃ可愛い。

 やばい・・・・・・。ずっと見ていたい・・・・・・。


「どう、でしょうか?」

「うん。めっちゃ、可愛い、と思う」

「ありがとう、ございます」


 氷室さんが恥ずかしそうに礼を言って、俺の隣に座った。


「これから、撮影が始まります」

「そうか」

「王野さん。頑張って、って言ってもらえないでしょうか?」

「え?」

「王野さんに、そう言ってもらえたら頑張れる気がするんです」


 それくらい、いくらでも言うよ。

 そんなんで、頑張れるなら、何度だって言うよ。


「氷室さん・・・・・・頑張って」

「はいっ!頑張ります!」


 氷室さんの笑顔の可愛さに俺は思わず、顔を逸らした。逸さざるおえなかった。

 俺の隣にはツインテールの『深紅の瞳を持つ天使か』がいた。


「じゃあ、王野さん。ついてきてください」

「あ、あぁ、分かった」


 氷室さんの後に続いて、バスが停まっている場所まで戻った。

 さっきよりも大人の人がたくさんいて、なんだかピリピリとした緊張感が漂っていた。

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