6月11日 (金) 6:30〜『ようやく勝った』

 ようやく勝った・・・・・・。

 俺は誰もいない教室を見て、喜びに浸っていた。


「あーあ。負けてしまいましたか」

「ふぇ!? 氷室さん!?」


 突然、耳元でそう囁かれて変な声を出してしまった。

 振り返ると後ろには氷室さんが立っていた。

 どうやら、数秒の差だったらしい。

 あと少し遅く来たら、今日も負けていたのかもしれない。


「とうとう負けてしまいましたね。おめでとうございます王野さん」

「てか、本当にこんなに早くなる学校に来てるんだな」

「そうですよー。いつもこのくらいに来て、王野さんが来るのを待ってます」


 現在の時刻は午前6時30分。

 俺は今日、5時30分に無理やり起きた。

 まさか氷室さんに勝つのがこんなに大変だなんて思ってもいなかった。と同時に、こんなに朝早くに学校に来ている氷室さんのことを凄いと思った。

 どんだけ頑張り屋なんだよ。

 朝学校に来る理由が、勉強をするため、だぞ。尊敬しかないわ。


「立ち話もなんですし、入りませんか?」

「そうだな」


 氷室さんと2人並んで一緒に誰もいない静寂とした教室に入った。

 なんだか、新鮮な感じだった。いつも教室で俺のことを待っている氷室さんが今は隣にいる。

 なんだろう、ものすごく幸せな気持ちだ。この気持ちを味わうためなら、頑張って早起きをするのもいいかもしれない。


「早起きっていいものだな」

「でしょ?ですが、1番乗りの座を渡すつもりはありませんからね?」

「俺に負けたのに?」

「今日はたまたまです!それに誤差じゃないですか!」

「それもそうだな」


 それぞれの席に座って、氷室さんと30分くらい話していると、俺はいつの間にか優しい眠りについてしまっていた。


☆☆☆

『姫香視点』


 今、私の目の前には可愛いい寝顔で眠っている王野君がいる。

 結構、無理をして早起きをしたのだろう。目の下に薄らと隈ができていた。

 

「頑張ったんだね」


 私は、王野君の頭を撫でた。

 起きる気配は全くなし・・・・・・。

 

「いつになったら気づいてくれるんですかねー」


 今度はほっぺたをツンツンしてみた。


「そりゃあ、見た目はあの頃とガラッと変わったかもしれませんけど。特徴はいくつか残ってると思うんですけどね」


 それにしても驚きましたよ。王野君が同じ学校に通っているって気づいた時は。口から心臓が飛び出るかと思いました。

 そして、何よりあの事件です。まさか、あんな形で話すきっかけができるとは思ってもいませんでしたよ。まぁ、私としてはいつ話しかけようか迷っていたので、よかったのですけどね。

 

「私は王野君が気づくまで何も言いませんからね?ヒントは与えるつもりですけど。うふふ」


 出来るだけ早く気づいてくださいね。

 明日は最大のヒントを与えますから。

 私は王野君のおでこに軽くキスをすると、自分の席に戻って勉強を始めた。

 しばらくして、王野君のお友達の山崎さんが教室に入ってきた。

 「くそっー!」という大きな声で、王野君は目を覚ました。

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