6月9日(水) 21:00〜

 あれはまだ、俺が5歳のころの話。

 当時の俺には毎日のように一緒にボールを蹴る友達がいた。

 家も近く、当然同じ小学校に行くものだと思っていた。だが、そうはならなかった。

 あいつは、突然、俺の前からいなくなった。

 そんな、あいつの口癖が


ーーー翔くんはそこにいてくれればいいから、だった。


 あいつがその言葉を使う場面は様々だった。

 例えば、一緒にサッカーボールを蹴り合ってる時、一緒にベンチに座って読書をしてる時、バカなことやって一緒に怒られた時。

 あいつがどういう意味でその言葉を言っていたのか俺は知らない。

 今となっては知ることもできない。


「今、どこで何やってんだろうな・・・・・・」


 突然、俺の前からいなくなった時は、そりゃあ悲しかったし、怒りも覚えた。だけど、後日お母さんからあいつの想いを聞いて、その気持ちはどこかに吹き飛んだ。


「元気でやってるといいんだけどな」


 また、一緒にあいつとボール蹴りたいな。

 あいつは下手だったけどいつも楽しそうにボールを蹴るやつだった。俺もあいつと一緒にボールを蹴ってる時間は楽しかった。今はやめてしまったけどな。そういえば、俺のサッカーボールはあいつに渡したまま戻ってきてないんだっけ。

 まぁ、いいか。あれは餞別ってことで、あいつにあげたことにしておこう。

 

「そういえば、ひろくんも赤い目に白い髪の毛だったな」


 俺はあいつのことを「ひろくん」と呼んでいた。

 あいつは俺のことを「翔くん」と呼んでいた。

 笑うと女の子のように可愛らしいやつだった。

 やばい、思い出したら、懐かしくてなんだか泣きたくなってきた。

 ひろくんと過ごした日々はそんなに長くないけど、その分、思い出は色濃い。その思い出を語り尽くしたら夜が明けてしまうだろう。

 

「さよならくらいちゃんと言いたかったな」


 俺の中でのひろくんとの思い出の中で、それだけが唯一の心残りだった。

 もしも、再会することがあるのなら言いたい言葉は「さよなら」じゃないけどな。

 

「やべっ。もうこんな時間か」


 急いで課題終わらせないと・・・・・・。

 寝るのが遅くなってしまう。

 氷室さんと歩よりも早く学校に行かないと行けないからな。

 俺は大急ぎで課題を終わらせて、ベッドに寝転がった。それが、午後22時のことだった。

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