6月9日(水) 20:30〜

「で、そろそろ、電話をかけてきた用件を言ってくれないか?」

『あ!そうでした!王野さんが変なこと言うから忘れるところでした』

「俺のせいかよ・・・・・・」

『王野さんのせいです!』

「はいはい。分かったよ。それでいいから、用件を言ってくれせんかね?」

『もぅ〜。まぁ、いいです。王野さん、土曜日ってお時間ありますか?』

「土曜日か。今のところ予定はないな」

『もし、王野さんがよろしければでいいんですけど、私の付き添いをしてくれませんか?』

「付き添い、というと?」

『その、お仕事についてきてほしいのです!』

「はい?」


 氷室さんは何を言ってるんだ?俺が氷室さんのお仕事の付き添い?そもそも、付き添いってなんだ?


「悪い。もう少し具体的に教えてくれ」

『あ、そうですよね。えーっと、具体的に言いますと、その今度の撮影がいつもと違うので少し自信なくてですね。その、王野さんが見にきてくれたら、頑張れるというか・・・・・・いいものが撮れる気がするというか・・・・・・要するにですね。王野さんに傍にいてほしいのです!』

「・・・・・・」

『な、何か言ってくださいよ!?』


 ごめん氷室さん。

 頭の整理が追いつかないよ・・・・・・。

 つまり、どういうことだ?土曜日に仕事があって、その仕事が自信ないから、俺についてきてほしいってことか?

 百歩譲って、一緒に行くのまだいい。だが、俺なんかがいたところで何もできないぞ。モデルの仕事のことなんか何一つ分からないぞ?そんな俺が行っても氷室さんの力になれるとは思えないんだが?


『あの、ダメでしょうか?』

「なぁ、なんで俺なんだ?」

『それは・・・・・・言わなきゃダメですか?』

「いや、まぁ、言いたくないなら言わなくてもいいんだけどさ、俺が行ったところで氷室さんをサポート出来るとは思えないんだがな」

『そんなこと、ないです!王野さんがいてくれたらきっといい結果が出せます!』

「そ、そうか・・・・・・」


 そこまでハッキリと言い切るのか。だったら、俺が取る選択肢は一つしかないよな。


「分かった。一緒に行くよ。その代わり、何もできないからな。文句は言うなよ」

『大丈夫です。王野さんは、ただそこにいてくれればいいですから』


 何そのパワーワード!?

 危うく惚れるところだったんだが!?

 

『ほ、本当に来てくれるんですよね?』

「あぁ。行くよ。どこに行けばいい?」

『この前の最寄り駅に10時に集合でお願いします』

「了解」

『では、これで失礼しますね。また、明日学校で会いましょう』

「明日は勝つからな」

『私も負けません』


 お互いに、おやすみ、と言い合って電話を切った。

 そこで、課題のことを思い出して、氷室さんに課題の範囲をメッセージアプリで送信した。

 ありがとうございます、と連絡が返ってきたのを確認して、俺は残りの課題に取り組んだ。

 

「そういえば、あいつ元気かな」


 氷室さんのさっきのパワーワードに俺は懐かしい記憶を思い出した。

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