6月9日(水) 7:00〜『朝の時間』

 昨日は散々な目に合った。

 屋上で4人での昼食会という名の俺をからかう会を終えて教室に戻ると、昼休憩が終わるまで、予想通りクラスメイトたちから質問攻めにあった。


『氷姫とどんな関係なんだよ?』

『いつの間に仲良く?』

『あんな笑顔初めて見たんだけど!?』


 その矛先が氷室さんじゃなくて俺というのは、たぶん俺の方が聞きやすいと思われたのだろう。

 なにしろ、教室に戻った氷室さんは誰も寄せ付けないように、冷たい空気を纏って勉強をしてたからな。

 まぁ、氷室さんに迷惑がかからなかっただけよしとするか。

 教室の扉を開けて中に入る。


「あ!王野さん!おはようございます!」

「おはよう。氷室さん」

 

 なんだか、やけに上機嫌だな。

 俺が自分の席に座ると、氷室さんが駆け寄ってきた。


「うふふ。今日も私の勝ちのようですね」

「はい?」


 氷室さんが『バカップル』と同じようなことを言っている・・・・・・。

 もしかして、洗脳されたか・・・・・・?

 

「あれ?違いましたか?お二人から王野さんと勝負してると聞いたんですど?」

「あれは、あの2人が勝手にやってるだけで、別に俺は競ってない」

「そうなのですか・・・・・・」


 残念そうに、しょぼんとする氷室さん。

 え、なんでそんな顔するんですかね・・・・・・?


「もしかして、勝負したいのか?」

「い、いえ、そういうわけでは!」


 明らかに目が泳いでいる。

 へぇ〜。意外とそういうことしたいタイプなんだな。


「じゃあ、勝負するか?」

「え!?でも・・・・・・いいんですか?」


 遠慮しているように見えて、その深紅の瞳は嬉しそうにキラキラと輝いていた。

 

「本当にいいんですか?」

「まぁ、氷室さんがやりたいならな」

「ぜひ!やりたいです!」


 机に手をついて、ぐいっと体を乗り出してくる氷室さん。その拍子に、甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

 相変わらずいい匂いだな・・・・・・。

 そして、笑顔が眩しい。


「じゃあ、明日から勝負ってことでいいか?」

「はい!負けませんからね!」


 普段なら面倒なことは避けるのだが、勝負事は別だ。勝負するとなったからには、本気で勝ちにいく。

 それに、俺も少しだけ、ほんの少しだけ、氷室さんと勝負したいと思っていたしな。


「俺も負けないからな」

「望むところです!」


 これから、毎朝楽しく、騒がしくなりそうだな。

 そう思ってニヤけてたら、教室の扉が勢いよくガラガラと開いた。

 『バカップル』が競うように教室の中に入ってきた。

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