6月8日(火) 7:00~

 チリリリリリ……。

 

 昨日、俺が作ったたまご粥を食べ終えた頃、寝る前にセットしておいたアラームが鳴った。


「もう、こんな時間か!?」

「ですね。王野さん、いったん家に戻られますよね?」

「そうだな。学校の準備をしないといけないからな」

「間に合いそうですか?」

「そのために7時にアラームをセットしておいた」

「なるほど」


 まぁ、まさかアラームよりも先に起きて朝ごはんまで済ませられるとは思ってなかったけどな。

 本当なら、家に帰って何か食べようと思っていたが手間が省けてよかった。


「とりあえず、俺はいったん帰るよ」

「分かりました。では、また学校でお会いしましょう」


 帰る準備をして氷室さんの家を出ようとする。

 今朝のこともう一度、謝っておこう……。

 そう思って、俺は振り返る。


「どうかしましたか?」

「いや、その……今朝は本当に悪かったな」

「もぅ~。それはいいって言ったじゃないですか。王野さんならいいんです」

「はい?」

「な、何でもないです!」


 氷室さんは顔を真っ赤にして逃げるようにリビングに戻っていってしまった。

 なんなんだ一体?

 まぁいいか。とりあえずは怒ってなさそうだしな。

 俺は氷室さんの家を出て自分の家に帰っていった。


☆☆☆


 いったん家に帰り制服に着替えて学校に向かった。

 学校に到着したのは午前8時だった。さすがにこの時間なので教室内にはチラホラと生徒がいた。その中には氷室さんと『バカップル』の姿もあった。

 俺が自分の席に着くとすぐに『バカップル』のツッコミ担当の歩が近寄ってきた。

 それも物凄い笑顔で……。


「よう!今日は遅かったな!」

「まぁな……」

「今日の勝負は俺の勝ちだな」

「1番だったか?」

「ようやくな!」

「そうか。それはよかったな」


 俺はチラッと氷室さんのことを見た。

 さすがに今日は1番は無理だったようだな……。

 氷室さんはいつものように姿勢正しく勉強をしていた。

 

「なぁ、何かあったのか?」

「別になにもねぇよ」

 

 まさか、氷室さんの家で朝を迎えたなんて言えないよな。


「なんか怪しいな……まぁいいや。ところで、今日は『氷姫』もいつもより遅く来たんだぜ」

「そ、そうなのか。歩、氷室さん、な」

「そうだったな、悪い。まだ言いなれなくてな。それにしても氷室さんがあんな時間に来るなんてな。まぁでも、病み上がりみたいだし、いつもよりゆっくり来たのかもな」

 

 歩は意外と勘が鋭いからな……。

 慎重に事を運ばないと……。

 と思っていた矢先。


「あ!王野さん!おはようございます!」


 まさかのそっちから!?

 俺が教室に来たことに気が付いたのか、勉強をしていたはずの氷室さんがこっちを見て満面の笑みを浮かべていた。

 そして、教室にいたクラスメイトたちの視線を集める……。

 

「なぁ、俺の聞き間違いか?今、『氷姫』がお前のこと呼ばなかったか?しかもめっちゃ笑顔なんだが」

「き、気のせいじゃないか……」

「そんなわけあるか!?見ろよ!あの顔!」


 氷室さんを見ないように逸らしていた顔を、歩に無理やり氷室さんの方に向けられた。

 満面の笑み……。

『深紅の瞳を持った天使』がそこにいる……。

 これはさすがに隠し切れそうにないな。俺は苦笑いを浮かべて歩のことを見た。


「やっぱりお前『超人』だわ……」


 歩が意味深な言葉を呟いたその時、ちょうど始業を知らせるチャイムが鳴った。

 

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