6月8日(火) 6:30〜

 ふにっと柔らかい感触に俺は目を覚ました。

 なんだ、この至福の感触は・・・・・・。まるで干したてのふかふかの布団に包まれているような感覚。

 全てを包み込んでくれるような感覚。

 顔を少し動かすと「ひゃんっ」と言う声が聞こえた。

 それで、ようやく思い出した。ここが、氷室さんの家だってことに。

 

「あの、あまり動かないでください」


 頭上から氷室さんの声が降ってきて俺はふかふかの布団から顔を離した。

 そこでようやく視界が開けて俺の置かれている状況を理解した。

 俺の目の前にはピンク色のパジャマを着た氷室さんがちょこんと座っていた。どうやら、俺はさっきまで目の前にある山に顔をうずめていたらしい。

 最悪だ……。

 俺はなんてことをしてしまったんだ……。変なことはしないって誓って氷室さんの家に残ったっていうのに。

 絶対に嫌われたな。とにかく、謝ろう。


「ひ、氷室さん。ごめん」

 

 俺は頭を地面につけて誠意を見せた。

 

「うふふ。頭を上げてください。王野さん。王野さんは何も謝るようなことしてないですよ?」

「でも……」

「さっきのは不可抗力です。私が王野さんを起こそうと思って体をゆすったのがいけないんです。それに王野さんはそんなことしない人だって分かってますから。ですよね?」

「あぁ……」

「だから、ね。頭を上げてください」

 

 俺はゆっくりと頭を上げた。

 眩しい……。

 氷室さんの後ろにちょうど窓があるのだが、そこから差し込む光が後光のように氷室さんを照らしていた。

 まさに、「深紅の瞳を持つ天使」だった。

 

「美しい……」

「へっ!?」


 そのあまりの美しさに口から言葉が滑り落ちた。

 氷室さんは不意を突かれたかのように目を見開いて俺のことを見ていた。


「あ、ごめん。つい……」

「いえ、その少しビックリしましたけど、大丈夫です」


 氷室さんは顔を真っ赤にさせていた。

 俺もなんだか恥ずかしくなってきた。

 お互い顔を見れないまま数分が過ぎ、室内には鳥のさえずりだけが響いていた。やがて鳥のさえずりも静まると、氷室さんが意を決したように口を開いた。


「あ、あの。昨日は本当にありがとうございました。助かりました」

「すっかり、元気になったようだな」

「はい。おかげさまで。王野さんのたまご粥……」

 

 氷室さんはそこまで言って、何かを思い出したように言葉を止めた。そして、耳まで真っ赤にしていた。

 

「うぅ……」

「どうした?」

「な、何でもないです!」


 氷室さんは立ち上がて逃げるようにキッチンに行ってしまった。

 一体何だったんだ? 

 昨日はたしか……。

 俺も自分が何をしたのか思い出した。

 そういえば、俺は昨日氷室さんに、あ~ん、をしたんだった。

 うわ~!!!ここに穴があったら入りたい。

 

「マジで、氷室さんの顔が見れなくなりそう……恥ずかしすぎて」


 俺がこれだけ恥ずかしいてことは氷室さんも恥ずかしかったんだろうな。だから、耳まで真っ赤にしてたんだろうな。

 そんなことえを考えてると、キッチンの方から物音が聞こえてきた。


「お、王野さんも、朝ごはん、食べますよね?昨日、王野さんが作ってくれた、たまご粥ですけど」

「……うん」

「じゃあ、今、用意しますね」


 声に若干の緊張をはらみながらも氷室さんは朝食の準備を進めていった。

 普段から料理をしているが分かるくらい氷室さんの手捌きはスムーズだった。どうやら、お味噌汁を作っているらしい。味噌のいい匂いがこっちまで漂ってきていた。


 


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