6月7日(月) 19:00〜

 30分近く、氷室さんは俺の膝の上で眠っていた。それでも、起きる様子がなかったので、俺はゆっくりと氷室さんの頭を持ち上げ、足を引き抜いて、そのままソファーに寝かした。

 そして、俺はお粥を作るためにキッチンに向かった。


「ほんと、綺麗に整理整頓されてるな」


 勝手にキッチンを使うのは申し訳ないと思ったが、氷室さんはご飯を食べてないということだったので、何か食べるものを作ってあげようと思った。


「ごめん。氷室さん。汚さないから、少し使わせて」


 俺は眠っている氷室さんに謝りを入れて、お粥を作り始めた。

 他所様の冷蔵庫の中身をあまり勝手に使うわけもいかず、たまごを一つだけもらって、たまご粥を作ることにした。

 冷蔵庫の中まできちんと整理整頓されていた。


「ん・・・・・・王野さん?」


 お粥の匂いにつられたのか、目を擦りながら氷室さんが体を起こした。


「起き上がって大丈夫か?」

「はい。なんだか、いい匂いがします・・・・・・」


 くんくん、と犬みたいに鼻を動かす氷室さん。

 その仕草がまた可愛い。


「お粥作ったんだ。キッチン勝手に使わしてもらったよ」

「それは、はい。大丈夫です。お粥、王野さんの手作りですか?」

「俺以外に誰かいるか?」

「そう、ですよね」


 熱のせいで頭が回っていないのか、訳のわからないことを言うな。

 氷室さんの頬がさっきよりも赤い感じがするが気のせいだろうか。


「食べれそうか?」

「たぶん・・・・・・」

「そうか。じゃあ、ちょっと持ってくるよ」

「ありがとう、ございます」


 食器棚から花柄の茶碗を取り出し、たまご粥を入れお盆に乗せて氷室さんのもとに戻った。

 お盆を俺と氷室さんの間に置いて座った。

 たまご粥をスプーンで一口すくって、ふぅふぅ、して俺は氷室さんの口の前に差し出した。


「ちょっと熱いかもだから気をつけて」

「・・・・・・はい」


 氷室さんは、はむっ、とたまご粥を食べた。

 

「美味しい、です」

「それは、よかった」

「味加減も私の好きなものです」

「そこは心配だったけど、それなら大丈夫そうだな。自分で食べれるか?」

「食べさせてくれないのですか?」


 深紅の瞳をうるうるとさせて、俺のことを見上げてくる氷室さん。

 その表情は反則すぎ・・・・・・。

 そんな瞳で見られた抗えるはずもなく、俺はたまご粥をスプーンですくい、また氷室さんの口の前に差し出した。

 氷室さんは満足そうな顔を浮かべ、はむっ、とたまご粥を食べた。


「ごちそうさまでした」

「食欲はちゃんとあるみたいだな」

「はい。その、自分で作るのが大変で食べなかったんです」

「ご両親に連絡は?」

「一応しましたけど、離れて暮らしてるので」

「そっか。とにかく、ご飯も食べたし、後は安静にしてろよ」

「はい。ご迷惑おかけしました」

「ほら、さっさと寝る!寝るまでいてやるから!」


 急に氷室さんと2人っきりということを思い出して俺は恥ずかしくなった。


「もう少し話したかったのに・・・・・・」


 氷室さんはなんだか名残惜しそうな顔をしていたが、ソファーに横になるとすぐに夢の中に入っていった。

 ここで、俺の中に選択肢が生まれた。


1.このまま様子を見るために朝までいる


2.自分の家に戻る


 どっちが正しいのだろうか。

 もしも、このまま氷室さんの家に残ったら? 

 もちろん、変なことをするつもりは毛頭ないが、それでも疑われるかもしれないな。


「それは、嫌だな。でもな・・・・・・」


 このままソファーに寝かして寝返りで落ちたりして怪我させたら申し訳ないしな。


「ここは1だな。氷室さんには申し訳ないけど」


 二つの選択肢が俺の中で葛藤し、最終的には氷室さんの家に残ることにした。

 いつも通りに起きれば、一回家に帰って学校の準備をするくらいの時間はあるだろう。

 俺はスマホのアラームを午前7時にセットし、ソファーの肘掛けにもたれかかって目を閉じた。

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