6月3日(木) 7:00〜 『陽だまり姫?』

 昨日、決めた通り俺は7時に学校に来ていた。

 だが、教室にはすでに彼女の姿があった。

 マジかよ・・・・・・。

 何時に来てるんだ・・・・・・。

 そう思いながら教室に入り、自分の席に座った。

 一応、挨拶するか。


「おはよう」


 相変わらず朝から勉強している氷室さんに声をかけた。


「あ、おはようございます」


 バッと顔をこっちに向けた氷室さんは顔に笑顔を咲かせて挨拶を返したきた。

 そんな普通の行動ですら氷室さんが行うと絵になる。

 普段からその笑顔をしていればいいのに。そしたら『氷姫』なんて呼ばれることもないのにな。 

 今の氷室さんは、さながら『陽だまり姫』ってところか?

 氷室さんの笑顔を見てるだけで、心がぽかぽかと温かくなった。


「今日も勉強か?」

「はい。今日は仕事で午後からいないので・・・・・・」

「そうなんだな。凄いな。高校生のうちから仕事してるなんて」

「そんなことないですよ。たまたま運がよかっただけです」


 謙虚というか、自分に驕らないというか。

 それとも自分に自信がないのか。


「私より可愛くて美人の人はいっぱいいますから」

「たしかにそうかもな」

「え?」


 ん? 

 何を驚いてるんだ?  

 芸能界の世界なら氷室より可愛いくて美人の人はたくさんいるだろうに。そりゃあ、この学校では一番かもしれないがな・・・・・・。


「どうかしたか?」

「いえ、そうですよね。だから、やっぱり私は運がよかっただけなんですよ」

「まぁ、そこまで言わなくてもいいとは思うけどな。少なくとも氷室さんに魅力があるから仕事の依頼が来るんじゃないか? その辺のことはよく分からんけど」

「魅力、ですか? 私に魅力なんてあるんでしょうか?」

「そうだな。例えば、さっきの笑顔とか魅力の一つだと思うぞ」

 

 俺がそう言うと、何故か氷室さんの顔はゆでだこのように赤くなっていった。

 

「顔赤いけど大丈夫か? 熱でもあるんじゃないか?」

「だ、大丈夫です!」


 氷室さんは俺から顔を逸らすと何事もなかったかのようにペンを動かし始めた。

 なんだったんだ・・・・・・?

 それから、教室には30分くらいの静寂が流れた。

 俺は読書に集中して、氷室さんは勉強に集中していた。

 だから、耳元で声をかけられるまで気がつかなかった。


「王野さん」

  

 生暖かい吐息が耳を包み込んだ。

 

「うわぁ!」

「きゃ!」


 俺は驚いて、思わず耳に手をあてた。

 その拍子に、横に立っていた氷室さんの頬を俺の手が掠めた。


「ご、ごめん。大丈夫?」

「いえ、こちらこそすみません」

「どうしたの?」

「えっと・・・・・・」


 もじもじと体を動かし、少し上目遣いで何かを言いたそうな氷室さん。


「あの・・・・・・私と・・・・・・」


 氷室さんが何かを言いかけた、その時廊下の方からドタバタと大きな足音が聞こえてきた。


「わ、私、席に戻ります!」


 その足音を聞いた氷室さんは急いで先に戻っていつもの『氷姫』に戻ってしまった。

 それから、すぐに教室の前側の扉が開いた。

 教室に勢いよく飛び込んできたのはやっぱり歩だった。

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