6月2日(水) 8:00〜

 教室の扉をガラガラと開けて入ってきたのは俺の友達の山崎歩やまざきあゆむだった。

 歩は運動派イケメンだ。サッカー部のエースストライカーで10番を背負っている。

 俺と歩は中学生から友達で同じ高校に進学した。一年の時は違うクラスだったが、二、三年生は同じクラスになった。

 そんな、歩もまたクラスメイトから言われている呼び名があった。

 『バカップルのツッコミ担当』

 それが、歩に付けられた呼び名だった。

 『バカップルのボケ担当』もそのうち来るだろうから、そっちはその時にということで・・・・・・。

 俺は歩に挨拶をした。


「おはよう、歩」

「おはよう、かける

「相変わらず、朝から元気だな」

「相変わらず、早いな」

「お前が一番乗りするのは無理だと思うぞ」


 何故だかわからないが、歩は俺と競い合っていた。どっちが先に教室に一番乗りをするかを。


「そんなことない! 絶対に翔に勝ってみせる!」


 意気込んでるところ申し訳ないけど、俺に勝ったところで無駄なんだ。 

 なにしろ、俺はこの二ヶ月、一度も氷室さんに勝てていないのだから。


「まぁ、頑張れよ。俺に勝つには7時30分より早く来ないと行けないけどな」

「マジかー! それって俺が起きてる時間だわ!」

「なら、歩が教室に一番乗りするのは一生無理だな」

「ぐっ・・・・・・」


 歩とそんな話をして、ふと気になった。

 氷室さんはいつも何時に学校に登校しているのだろうか・・・・・・。

 いつも俺より先に教室にいるから7時30分よりも前からいることになる。

 明日はもう少し早い時間に学校に登校してみるか・・・・・・。


「明日は7時30分に学校に来てやるー!」

「おう、頑張れよ」


 俺は7時に行くけどな。


 歩が教室に来て10分後。

 『バカップルのボケ担当』が教室にやってきた。


「おっはよ〜!」


 元気溌剌な声が教室に響き渡った。

 藤井真美ふじいまみ

 肩くらいまで伸びたウェーブのかかった茶髪。パッチリとした瞳。笑顔がよく似合いそうな口元。常に笑顔でクラスの人気者だった。

 藤井は歩の彼女であるとともに、俺の友達でもある。

 

「今日も負けた〜!」


 藤井は大袈裟に膝から崩れ落ちて床に手をついた。

 さすが『バカップルのボケ担当』。リアクションが大きい。


「真美。おはよう」

「おはよ〜。歩」


 藤井はすぐに立ち上がって、歩の元へと駆け寄ってきた。


「あ、翔もおはよう」

「おはよう。お前ら本当に似たもの同士だよな」


 同じようなリアクションしやがって。

 本当に仲がいいな。

 

「てか、翔、早すぎ! 勝てないじゃん!」

「なんで、俺に勝つことを目標にしてるんだよ」

「意味なんて特にないけどさ〜! 一回くらい何かで翔に勝ちたいんじゃん!」

「そうそう! 何やっても翔には勝てねぇんだよなぁー」

「それなら、他のことで競えばいいだろ」


 それこそ、俺に勝っても意味ないんだから。

 

「いやー。これ以外、翔に勝てそうなものないんだよなー」

「そうだよ〜。翔、超人過ぎなんだから!」

「人に変な呼び名つけるな」

「いいじゃん。事実なんだし〜」


 俺は決して認めないからなその呼び名。

 『超人』なんて呼ばれるほど俺は凄い人じゃない。

 俺は基本的にはめんどくさがり屋な性格だが、めんどくさくならないために計画性を立てて行動するような人でもあった。

 それが、いろいろと結果を出して、いつしか『超人』なんて呼び名で呼ばれるようになってしまった。


「事実じゃないから」

「別に翔が認めなくても、私たちが認めてるから」

「不服な」

「中学の時から知ってるけど、翔は超人だよ」


 もう、何を言っても無駄らしい。

 俺は諦めて文庫本を読むことにした。

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