第13話 ラッキー?
「すみませんご主人様、私のせいで遅刻を」
だから腹を切る云々の件を昼休みに散々と。そのせいで昼飯を食べ損ねて腹が減っていた俺は、放課後すぐに上杉に誘われた。
「駅前に新しいハンバーガー屋できたらしいぜ」
「まじか。腹減ったから食いたいな」
「だろ? じゃあ行こうぜ」
そんな流れで向かった駅前は結構賑わっている。
といっても近くの高校生が買い食いしてる程度のものなので、あくまで田舎にしては、という言葉を頭につけておくべきではあるが。
俺や上杉はいつもそんな賑わいの中でグダグダと時間を潰しながら女子生徒の姿を目で追って、どの子がかわいいかなんてくだらない話を延々としてから帰るのが毎度の楽しみなのだが。
「なんか最近かわいい子いないなあ」
思わずそう呟いてしまったのは、やはり遠坂さんの影響だろう。
身近にあんなかわいい人がいたらやはり目は肥える。だから最近他の女子を見ても全然盛り上がらない。
「えー、あの子とか良くないか?」
「うーん、別にって感じだなあ」
「お前、もしかして遠坂さんと比べてないか?あんな美人はそういないって」
「まあ。でも、理想は高くなるもんだろ」
「わかるけどさー。やっぱり美人はどこかのイケメン金持ちと結婚するのが相場だって」
「夢のない話だな」
ほんと、笑い話なのだろうが笑えない。
遠坂さんに寄ってくる男子は俺を含めて無数にいるだろうし、彼女は天然だから隙も多いし、うまいことどこかのイケメンにとられる可能性は大いにある。
俺に与えられたアドバンテージは、彼女が我が家のメイドをしているということだけ。
そんな親から与えてもらったものだけで彼女を繋ぎとめている気になるのはあまりに男として器が小さい。
彼女の方から俺の傍にいたいと、本心からそう言わせるためにもこんなところでブラブラしてる場合では……
「帰るか」
「どうしたんだよ、まだこれからだろ」
「いや、目の保養にならん。今日は帰る」
「ま、そんな日もあるか」
上杉のさばさばした性格は俺の気まぐれな性格によく合う。
互いにこんなんだから逆に付き合いがうまくいくというか、椎名もだけどある程度干渉しない方が気が楽なもので。
当然こいつはそんなだから解散となればまっすぐ家に。
「なあ、それならお前ん家行っていいか?」
「え?」
帰らないようだ。
「たまにはいいだろ。お前ん家、最新のゲーム機あるんだろ?」
「ま、まあそうだけど」
「じゃあ行こうぜ」
「い、いや」
さすがにまずい。
何がまずいかって、もちろん家に遠坂さんがいるからである。
しかもメイド姿をさせた彼女が玄関でお出迎えなんて、どう言い訳をしても通じないだろう。
……断るか。いや、断ったらそれはそれで何かあると怪しまれるかもだけど。
うーん。困った。
「なんだよ、今日はまずいのか?」
「え、そうだなちょっとだけまずいというか、気まずいというか」
「ふーん。じゃあ別日にするか」
「そ、それはありがたい。また必ず埋め合わせするから」
なんか知らんが奇跡的に助かった。
でも、これは問題を先延ばしにしただけだということに変わりはない。
いつか必ず友人が俺の家に来るという時はやってくる。
その時にどう誤魔化すか、帰ったら遠坂さんと相談だな。
「ただいま」
上杉と別れて足早に帰宅し、玄関を開けるとまたしても彼女の姿がない。
買い物にでも出かけてるのかと、リビングの明かりをつけると遠坂さんがソファですやすやと眠っていた。
「遠坂さ……いや、そっとしておこうか」
とても安らかな寝顔で、スース―と寝息を立てる彼女にそっとタオルケットをかけてから灯りを暗くした。
最近疲れてるんだろうし、たまにはこんな日もあっていいか。
でも、やっぱり今日はあいつの提案を断ってよかった。
家に帰ったら遠坂さんがリビングで寝てるなんて、どうにも言い訳がたたないからというのもあるけど。
この寝顔は俺以外の人に見せたくないなと、そう思ったから。
◇
というわけで自分で風呂を沸かしてから、ゆっくりと湯舟に浸かる。
風呂の中でももちろん考えることは遠坂さんのことばかり。
最初は寝る間も惜しんで仕事をしてくれていたけど、こうやって夕寝をしてしまうあたり、むしろ以前より打ち解けてきた証拠なのかもとか、自分に都合のいいように解釈を並べながら彼女との日々を振り返っていた。
すると。
「ごしゅじんさまー」
遠坂さんの声が外から聞こえてきた。
どうやら目が覚めたようだ。
「はーい、今お風呂ですー」
そう返事をすると、ドアのすりガラスの向こうにフラフラと、彼女のシルエットが現れる。
「遠坂さん?」
「あ、ごしゅじんしゃまー」
「わー、入ってこないで!」
「うーん、むにゃむにゃ」
「ね、寝ぼけてる?とにかくここはお風呂ですから!」
「あれ……あ、おはようございますご主人さ……キャー!」
「え……わー!」
目の前に素っ裸の俺がいるところで目を覚ました彼女は慌てて風呂場を去っていった。
なんでいつも俺ばかりが風呂を覗かれるんだ、どうしてその逆はないのだと、ラッキースケベにもありつけずただ露出を繰り返す結果になってしまっている事態にうんざりしながらすぐに風呂を出ることに。
そしてリビングに行くと案の定、遠坂さんが土下座。
それを必死でなだめていると気が付けば夜中になってしまった。
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