第2話 学校の先輩
俺の住むところ
まぁ電車に乗れば街まですぐだし不便はないけど、大体移動には車が必須。
もちろん高校生で車の免許もない俺の活動エリアは、近くの商店街とショッピングモールくらいに限られる。
「あの、ちなみに遠坂さんは免許とかは」
「持ってません」
「ですよねぇ」
持っていると言われた方が不安だったので安心した。
しかし自転車も一台しかないので、結局徒歩でショッピングモールへ向かうことに。
「田舎だから不便ですよねこの辺って」
「いえ、のどかでいい場所ですよ。それに海が近い場所は好きです」
「ふーん。ずっといると退屈だけどなぁ」
「いえいえ、ご主人さまといると退屈なんて……い、いえ私ったら何を」
照れる。別に瞳さんに限った話ではなく俺も。
まぁ、この人といると退屈はしないけど、もうちょっとだけ器用に振る舞ってもらえたらいいのに。
「もうすぐ着きますよ。まずは服と食器と、あとついでにスーパーで食材も買って帰りましょう。荷物は俺がもつから」
「ご主人様のご配慮感謝します。私、非力なので買い出しに行くと帰りが大変で」
「女の子なんだから仕方ないですよ。それよりほかに欲しいものありますか?」
「ほしい、もの……」
ほしいものを聞いたはずなのに、なぜか彼女がジッと俺を見てくる。
大きな目を少しだけ細めて、すごい目力でこっちを見つめる。
「あ、あの?」
「え、あ、すみませんほしいものですよね……ええと、お金とか」
「なんか申し訳なくなるから買えるものにしてよ……」
「そ、そうですよね、ええと……愛、とか?」
「なんか重い!それに愛は買えないよ……」
「え、愛は買えるってテレビで言ってましたよ?」
「どんな番組見てるんですか一体!」
素っ頓狂なボケばかりをかまされていたら店の前に着いた。
今日は日曜日ということと、学生は春休みでもあるためか多くの客で賑わっている。
「なんかいいですねこういうにぎやかなのも」
「ええ、ご主人様とこうしてお買い物なんて光栄です」
「そんなかしこまらなくていいですよ」
「いえ、ご主人様に仕えるのが私の仕事ですので」
ちなみに今日の彼女の恰好は白のワンピース。
さすがに外出時にメイド服を着せるほど俺もマニアックではないけど、しかしこの私服姿がまた可愛いのである。
純白の美少女なんて形容がとても似合う彼女は、通り過ぎる多くの男性客からの注目の的だ。
「なんか見られてますね」
「私、なにか変な格好でもしてますでしょうか?」
「いや、それは遠坂さんが可愛いからだと思うけど」
「きゃわっ!?い、いえそんな私なんて……」
照れる彼女がくねくね。仕草も可愛くて困ったもんだ。
「と、とりあえずあそこが女性服のコーナーだから。うちの親からクレジットカード、預かってますから」
俺は親から預かっていたクレジットカードを彼女に。
もちろんこれは生活費の代わりとして預けられているものなので無駄遣いは一切できない。
一応小遣いは少ないながらにもらっているので問題はないけど、万が一不要なことに使ったら即日カードを止めると脅されているわけで。
しかし遠坂さんにかかるものは必要経費。昨日ちゃんと親の許可ももらってあるし問題はない。
「クレジットカードって私、見るの初めてです」
「え、クレジットカード使ったことないですか?ええと、とりあえずこのカードをきったらお金が払えるんです。暗証番号は○○××ですから。」
「そ、そんな便利なものが……わかりました、買ってきます」
女性服の店は、一部が下着コーナーになっていて少し入りづらいのもあったので、俺は彼女に買い物を任せてから飲み物を買いに行くことに。
なんか、デートみたいだな……
いやいや、そんな邪な考えを持っちゃダメダメ。彼女はうちのメイドさんなだけ。
二人分の缶ジュースをもって店の前に戻ると、彼女が紙袋を下げて店から出てきた。
「ありがとうございます。」
「カード、無事に使えました?」
「いえ、切ってもダメでしたので現金で」
「え?そんなことないと思うんですけど……カード見せてもらえます?」
「はい、綺麗に切れましたよ」
「……わお」
クレジットカードが真っ二つ。
きれと言ったのはまぁ……俺だしな。
「あの、きるというのは端末機に通すという意味だったんですけど……」
「え、そうなんですか?どおりで店員の方から変な目で見られたわけですね……」
いきなりレジでクレカを切断する女の子なんて、さぞ店員さんもビビっただろうなぁ。
しかしこれ、早めに再発行しないと生活やばいな……
「すみません私、田舎出身で機械に疎くて……」
「そういう問題かなぁ……ちなみにどんな田舎だったんですか?」
「そうですね。山と川ばかりののどかな場所で、それに時々知らないおじさんが家を覗きにくるような平凡なところです」
「最後のおっさん誰!?え、そんな田舎で知らない人って危ないよ?」
「大丈夫です。いつも笑いながらこっちを見てるだけでしたから」
「危ないよ!」
そのおっさん多分変質者だよ? 大丈夫だったの本当に?
「とりあえず、次は食器ですね。ええと、二階にあがりましょうか」
「はい、お願いします」
エレベーターに乗ると、「へぇー」と声をあげたのは遠坂さん。
本当にこの時代の人間なのかと疑いたくなるほどに文明社会とはかけ離れたところで生活してたんだなこの人。
「すごいですねエレベーターって」
「エレベーターに驚く人ってなかなかいませんけど……」
「し、失礼ですよ私は文明の進化に感心しているだけです」
「エレベーターって結構昔からあるよ……」
時々近所の小学生がワンマン列車を見て「ママ、しんかんせん!」とか言ってるようなそんな平凡な田舎ですら、遠坂さんからすると都会なのだろう。
「あの、遠坂さんって田舎から上京してきたって感じですか?」
「はい、高校からこちらに出てきましたので。でもいつまで経ってもなかなか慣れなくてですね」
「ふーん」
ということはうちで働く前からこっちに住んでるのか。
じゃあうちにくるまで住んでた家は? ま、まぁいいか。
「それより、遠坂さんのお箸とか食器とか、せっかくだから自分の好きなもの買ってください」
「好きなもの……私、猫が好きです」
「猫は飼わないよ……」
「え、ええとそれならせめてぬいぐるみを」
「食器の話はどこいったんですかねぇ……」
しかしもの欲しそうに猫のぬいぐるみを見つめる彼女のためにぬいぐるみを一体購入。
これはもちろん俺の小遣いから。
俺ってもしかして貢いでしまうタイプなのかなぁ。
「ありがとうございます!一生大事にします!」
「いやいやそんな大したものではないけど」
「いえ、ご主人様から初めていただいた大切な品なので。えへへ、可愛いぃ……」
うわっ、可愛い……。
もちろん彼女が、だけど。
あー、なんか楽しいなぁ。
でも、彼女はメイドさんだから俺の彼女じゃないし。
だけど、本当にいくつなんだろ?
そのあと食材を買ってから帰る時、ふと彼女の学校事情について疑問が生まれた。
多分十代だと思うけど高卒なのかな? それとも、大学生しながらアルバイト、とか?
「遠坂さんって学校行ってないんですか?」
「え、行ってますよ」
「そ、それって大学?」
「いえ、高校生ですが。なにか?」
「……もしかしてだけど、冬埼高校じゃないですよね?」
「あら、よくご存知ですね。ちなみにこの春から二年生です!」
「……先輩じゃないですか!」
なんとまぁ、明日から俺が通う学校の先輩だそうです……
え、なんで高校生がメイドを?
「あのー、なんでこんな仕事してるんですか?」
「えーと、数年前に両親が離婚しまして母に引き取られたのですがその母が男を作って先週蒸発しましてですね」
「重い重い! 明るい感じで急にすんごい話しないで!」
「それで住み込み可能なバイトを探してたところ引っ掛かりまして。ご主人様のお父上もすぐに合格をくださったので」
「な、なるほど……」
いや、なるほどか?
ていうかメイドの求人なんか出してたんだ。
……ていうかよく考えたら遠坂さん、身寄りがないのか?
なんか大変だよな、それって。
「大丈夫なんですか?」
「ええ、最初はびっくりしましたが大丈夫です。もともと母も仕事と遊びばかりで家にはいませんでしたし」
「はぁ……」
「それに……いえ、とにかく今は私、幸せです」
なぜか両の手の拳をグッと握りガッツポーズをとりながら笑う。
……この人、結構強い人なんだな。そんな彼女を見ると、これ以上いらぬ心配はしないほうがいいと、そう思った。
「というわけで明日はご主人様の入学式の保護者代行は私が務めさせていただきます」
「いやいや在校生が保護者ってダメでしょ? それに遠坂さんも新学期なのに」
「遠坂では……力不足です、か……?」
「え、いや……」
「しくしく」
「あ、あの……」
泣き出した。
通りかかる人がヒソヒソと話しながら、こっちを白い目で睨みつけている。
あー、まずいなこれは。
「いやいや、保護者は遠坂さんがいいなぁ。うん、それ以外の人だとヤダなぁ、あはははは……」
「ほんとですか?よかったです、私明日はバッチリスーツを着ていきますね!」
「いや制服着てください!」
うーん、まさか同じ高校生だとは。
明日の入学式……不安しかないよ……。
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