第1章 イヤなイヤなイヤな一日

第1話:勃発:はじまりはいつも土砂降り

今岡がやられた。

2日目になって気づく私も鈍い。

そう言えば、あいつ、一人でトイレに行ってたな……。

私も一人で行くほう。

でも、生理のとき一人ポーチを持って行くのはつらい。

べたなぎの教室……。

朝、来ると、すでに2・3のグループができている。

静けさが耳をチクチク突き刺す。

眠れない夜にシーツが耳元で気だるくこすれるよう。

みんながヒソヒソ今岡を噂している。

うっとうしい秋の夜虫。

いつのまにか耳を嫌味におおう。

鈍色にびいろの海に浮遊する目的のないポンポン船のような女子の集団。

ぶよぶよ、べちゃべちゃと重く浮かぶ。

今岡は一人ポツンと縄の切れたブイ。

黙々とすでに片付いた机の整理をし続けている。

自分の居場所を正当化しようと物乞ものごいするような目つきが悲しい。

今岡がやられたのは、我が校、女子生徒のあこがれ・浅倉に手を出したからだ。

手を出した、と言うのは語弊。

今岡は唯一浅倉と中学校時代からの同級生。

親同士の懇意な付き合いもあるという。

その家族同志の付き合いでクラシックのコンサートに行ったらしい。

そこを運悪く目撃された。

クラシックだからな……。気取って正装でもしていたんだろう。イブニングドレスなんか着て。

その姿が浅倉をしたう女子生徒の鼻についたわけだ。

男女の色恋沙汰については、私の学校は少し複雑な構造をはらんでいる。

私の高校、私立浅越あさごえ高校はもともとは女子高。

少子化の営業対策で5年前から共学になった。

しかし、この不況化で今さら、野球部やサッカー部など、大規模な設備投資はできないので男子の定員数は初めから少ない。

1学年4クラス、女子120人に対して男子は40人。生徒全体の25%。

必然的に女が男の奪い合いになる。

特に私たち3年は下級生とはなかなか付き合いづらいので競争はさらに過酷だ。

みんな口には出さないが、男の子の股間ばかり見ている。

目的はアレしかない。

そのくせ気取ってリップだのパーマだの見た目の取りつくろいには必死だ。

だから、誰かが男子と付き合うと、そのやっかみは凄い。

かと言って恋愛は自由なわけで、個人をイジメる理由にはならない。

現に、小器用こぎように男子と付き合ってる生徒は何人かいる。

今岡だって例外ではなかったはずだ。

しかし、今岡はやられた。接触したのが浅倉なのがよくない。

 西野だ。

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