第478話 決着
「よしっ、一人で頑張るか」
俺は気合いを入れるために声を出し、剣を握る手に再び力を入れた。襲いかかってくる人を片手剣とバリアで止めて受け流し、それと同時に魔法で攻撃する。
敵の魔法攻撃は相性の良い属性の魔法で相殺し、バリアを板状に変化させて防ぐ。さらに襲いかかってくる獣は、剣で斬りつけ魔法で急所を狙う。
数が減ったとはいえまだ数十以上はいる敵に、俺は小さな傷を負いながらも一人で対処していた。
またどこからか救援が来たのかホール内の密度が上がり、床に倒れてる人や獣が増えたことで戦いづらさを感じるようになってきた頃。やっとファブリスが戻ってきた。
『主人、戻った』
ドサっと鈍い音を立ててファブリスの口から床に落とされたのは、白目を剥いて気絶している国王だ。
「生きてる……?」
『ああ、大きな怪我はない。少し脅してから運ぼうと我が咥えたら、叫んで急に意識を失った』
ファブリスに咥えられたら……確かに気を失っても仕方ないか。こんな大型の獣に生きたまま食われる寸前とか、何よりも恐怖だよね。
「……っ、陛下!」
ファブリスが連れてきた人物が国王だと誰かが気付いたらしい。国王を助けようとファブリスに矛先を向け……しかしファブリスがうつ伏せで倒れている国王の背中に前足を乗せたところで、皆が動きを止めた。
『お前ら、そろそろ降伏しろ。これ以上続けるなら国王の命はないぞ』
「……っ……」
まだ立っている敵は俺たちを鋭い視線で睨みつけるも、さすがにここから逆転は難しいと思っているのか動くことはしないようだ。
俺はそれを見て、やっと戦闘の終わりを感じた。
「こいつらはどうするか」
縄で縛ったとしても、強化された身体能力や魔力によって縄なんて簡単に切られてしまうだろう。どこかに閉じ込めておくのが一番かな……
「ミシュリーヌ様。頑丈な牢屋とか、それに代わる場所ってないですか?」
『そうね……王宮の地下にかなりの規模の牢屋があるわ。いくつかに魔法を撒き散らして暴れる獣も入ってるし、かなり頑丈なんじゃないかしら。後は研究施設にも同じような場所があるわね。ただこっちはすでにいっぱいよ』
「ありがとうございます。じゃあその地下が一番ですね」
それから俺はファブリスにも手伝ってもらい、転移やバリアを駆使してまだ生きてる人間を全員地下牢に閉じ込めた。
さらに国王以外の王族も全員捕えて、一応貴賓用の牢屋に隔離する。最後に研究施設の職員も捕まえ、研究を止めれば完了だ。
「この後はどうしようか。ここまで上層部がいなくなると、ラースラシア王国の属国にするのが一番だよね」
『そうだな。上層部は特にエーデンとかいう神を強く信じているようだ。意見を変えることはないだろう』
「だよね……じゃあアレクシス様に連絡してここまで騎士団を送ってもらうとして、問題は捕えた魔素の結晶によって強化された人たちだ」
捕まえながら少し話をしただけでも、明らかにエーデン教を信仰していて王族に忠誠を誓っている人と、家族などを人質に取られて仕方なく命令を聞いていた人に分かれていたのだ。
後者の人たちはなんとか救ってあげたい。
「ミシュリーヌ様、魔素の結晶を取り込んだ人たちって、普通に戻ることはないんですか? 時間経過とともに効果が薄れるとか」
『……私にもよく分からないけれど、その可能性は低いんじゃないかしら。少し調べてみた結果、魔素の結晶は肉体自体を変化させるのよ。体内に取り込んだ魔素の結晶が尽きるまで強い力を発揮できるというものではないから、効果がなくなるということはないはずよ』
そうなのか……それだと強化された人たちの今後には悩む。さすがに一般社会で普通に暮らして良いですよ、というふうにはできないし。
一番無難なのは、強化された人たちだけの街を作ることかなぁ。その中なら自由って感じで。家族は望めば入れるようにした方が良いかも。
何にせよ、まずはアレクシス様に相談だな。街を作るにしても俺では管理しきれないだろうから、ラースラシア王国で管理体制を整えてもらいたいし。
「ミシュリーヌ様、中心街の礼拝堂に誰かいますか?」
『ちょっと待ちなさい。……いるみたいよ。騎士服姿の人間が三人』
「じゃあその人達にアレクシス様への伝言を頼んで欲しいです。明日の午前中に一度転移で帰るので、できれば時間を空けておいて欲しいと」
『分かったわ。私に任せなさい! その代わり……』
「もちろんスイーツを食べていいですよ」
俺が苦笑しつつ答えると、ミシュリーヌ様の嬉しそうな叫び声が聞こえてくる。
『今回は何個かしら!』
「十個ぐらいにします? ミシュリーヌ様にはたくさん助けていただいているので」
『レオン……大好きよ!』
そこでミシュリーヌ様からの通信は切れた。多分すぐに神託をして、スイーツタイムに入るんだろう。
「じゃあファブリス、今夜は俺たちも休もうか」
『そうだな』
「あっ、ミシュリーヌ様、捕らえた人たちの監視をお願いします」
もうスイーツに夢中で聞いてないかなと思いつつ声をかけると、モゴモゴと口に物が詰まった声が僅かに届いた。
「ありがとうございます」
多分だけど了承してくれたんだろうと苦笑しつつお礼を伝えると、また聞き取れない声が聞こえて通信は切れた。
「ミシュリーヌ様って本当にスイーツが好きだよねぇ」
思わずしみじみとつぶやくと、隣にいるファブリスが瞳の奥を輝かせて俺に視線を向ける。
『スイーツは美味いから当然だ。……我も腹が減ってるぞ?』
「ははっ、りょーかい。じゃあスイーツは食事の後ね」
ファブリスからの遠回しな催促に、俺たちは適当な部屋に入って食事を済ませ、疲れからすぐ眠りに落ちた。
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