第477話 戦闘

「私が自ら邪教徒を始末してくれる……!」

 

 国王は目を血走らせてそう叫ぶと、床を蹴って俺達に向かって飛び込んできた。その攻撃を俺はバリアで軽く受け止め、国王が困惑の表情で剣を引いたところでバリアの形を変化させる。


 突然剣に姿を変えたバリアに国王は目を見開き、俺は動揺で動きを止めている国王の足に向けてバリアの剣を放ったけど……それは三人の護衛によって止められた。


「陛下はお逃げください!」

「ここは我々が!」


 三人の護衛は一人がバリアの剣に対処し、もう一人が剣で俺を狙い、もう一人が魔法で攻撃してくる。この三人、思ってたよりもずっと強いな。


 実験で強化された人達なんだろうけど、ラースラシア王国への襲撃者よりも強い気がするな。襲撃してきたやつらは、強化された人の中で弱い方だったのかもしれない。


「ファブリス! 襲ってきた人は……生死を問わないから倒してほしい」


 三人に対処しながらそう伝えると、ファブリスは楽しそうな声を発した。


『分かった。好きに暴れて良いんだな』


 ファブリスがその声を発した瞬間、執務室のドアが凄い勢いで開いて獣や人が流れ込んでくる。

 俺たちは執務室の真ん中で、一瞬にして敵に囲まれた。


「多いね……ファイヤーストーム!」


 敵の数から大規模魔法を使うべきと判断して、自分たちをバリアで覆って炎の竜巻を発生させると、その竜巻は執務室内の家具や書類を全て燃やしていったけど……被害があまり拡大しないうちに消された。


 敵の何人かが水魔法を使ったみたいだ。俺のファイヤーストームを消せるほどの水魔法って、やっぱり魔素の結晶を取り込むと普通ではありえない力を得られるんだな。


「ロックアロー!」

「え……うわっ」


 マジか、バリアにちょっとヒビが入ったんだけど。こいつら予想以上に強い……!


 俺は割れかけているバリアを消して、転移で敵の背後に回った。そして後ろから……唇を噛み締めて魔法を放つ。俺が放ったいくつものファイヤーバレットは、数人の体に命中した。しかし致命傷にはならない位置だ。


 やっぱり……対人間はダメだ。どうしても躊躇ってしまう。もうそこは諦めて、殺さず戦闘不能にする方向に切り替えよう。その方が迷いなく戦える気がする。


「後ろだ!」


 俺が背後にいることに気づいた数人が振り返って一斉に魔法を放ってきたので、俺はバリアでそれを受け止めつつ剣を取り出した。

 身体強化をかけて、まずは獣からと襲いかかってくる獣に剣を振るう。獣はいつも魔物を倒しているので、さすがに躊躇うことはない。


『主人、ここは狭くて戦いづらい。広いとこに移動するぞ』

「確かにね。……了解」


 転移でファブリスの背中に戻ると、ファブリスは風魔法で入り口付近にいる人や獣を蹴散らして、部屋から外に出た。


『ミシュリーヌ様、近くに広い部屋はありますか?』

『ええ。廊下をしばらく右に進んだ大きな扉がホールよ』

『ありがとうございます』


 行き先が決まったファブリスは廊下にもたくさんいる敵を上手く避けて時には攻撃して、軽い足取りで目的地を目指す。そんなファブリスを、俺も魔法で援護した。


「ファブリスってやっぱり強いね」

『当然だ。主人とは良い勝負だがな』


 扉を風魔法で吹き飛ばしたファブリスは、中に入って大きな雄叫びを上げる。


『何だか楽しくなってきた。いくぞ!』


 ファブリスはホール内に入ってきた敵に向かって駆け、すれ違い様に爪の攻撃で次々と致命傷を負わせていった。

 魔素の結晶によって強化はされているものの、神獣に勝てるほどではないらしい。敵は仲間がたくさんやられるにつれて、だんだんと逃げ腰になっていく。


 しかしさすがに向こうには数の利がある。ファブリスは何度か魔法攻撃を掠ったのか、小さな傷が出来ているみたいだ。俺もさすがに全ては捌ききれず、何度か攻撃を喰らって火傷や切り傷ができている。


 その都度回復はしてるけど、またすぐに傷ができる状況だ。


「さすがに数が多すぎるね」

『本当だな。でもそろそろ終わりだと思うぞ。敵が弱くなってきた』


 ファブリスのその言葉で顔を上げて廊下の方に視線を向けると……確かにさっきまでよりも敵の密度が下がっている気がする。


「そろそろ降伏してくれるかな」

『それには国王を捕まえた方が良いんじゃないか?』

「確かに。ミシュリーヌ様、国王の居場所は分かりますか?」

『ええと……王宮から出て研究所の方に向かってるわ』


 もしかして、まだそっちにはたくさんの強化された人間と獣がいるのだろうか。


「ファブリス、国王を止めたい。行ってくれる?」

『構わないが、主人は一人で大丈夫なのか?』

「うん。もう数も減ってきてるし」

『分かった。すぐにここへ連れてくる』


 ファブリスは頼もしくそう告げると、軽い足取りでホールを出て行った。

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