第476話 エリディトラス王国へ
王宮を出て王都も出たところで、俺はファブリスの背中にベタッと体を預けた。いつ寝てもふかふかで気持ちいいな。
「ファブリス、エリディトラス王国まで走ってもらっても良い? ファブリスばっかり大変で申し訳ないんだけど、魔力をあんまり使いたくなくて」
『別に構わないぞ。数日走り続けるぐらい、疲れもほとんどないからな。その王国にはどれほどで着くのだ?』
「うーん、ミシュリーヌ様、エリディトラス王国ってどのぐらいの距離なんですか?」
アイテムボックスから本を取り出して問いかけると、ミシュリーヌ様はすぐに返答してくれた。
『魔物の森に行くよりは近いわ』
『何だ、そんなに近いのか。ミシュリーヌ様、今走っている方向で合っていますか?』
『そうね……もう少し西寄りよ。近づいてきたら私が案内するわ』
『ありがとうございます』
ミシュリーヌ様とファブリスが会話をしているのを聞いて、俺はしばらく寝てても問題ないかなと瞳を閉じた。このふかふかの毛に埋もれると、眠くなるんだよね。
「ファブリス、ちょっと寝るね」
『了解した』
ファブリスのその言葉が聞こえて、気づいたら俺は夢の中にいて――
――意識が浮上した時にはもう辺りが暗くなっていた。
「うぅ〜ん、よく寝た」
ファブリスの背中の上で伸びをすると、ファブリスが少しだけ速度を下げる。
『主人、そろそろ王国の王都に着くらしいぞ。ミシュリーヌ様が仰っていた』
「え、もうそんなに来たんだ。ファブリスありがと〜。あとでスイーツたくさん食べて良いよ。ご飯もね」
『ふんっ、これぐらい我には朝飯前だ。しかし褒美は受け取ろう』
ファブリスの声音はかなり嬉しそうだ。ファブリスってツンデレだよね。
『レオン、あと三十分ぐらいで着くけどどうするの? 明るくなるまで待つ?』
「そうですね……暗い方が闇夜に紛れられますし、このまま行こうかなと思います。エスクデ国の時みたいに、王宮に転移するので良いですかね?」
『良いんじゃないかしら? それでまずは警告するのよね』
「そのつもりです。今回は俺もファブリスに乗って一緒に行こうかと」
『それならばエリディトラス王国の王宮を神界から見ないとよね。神界に呼ぶ?』
ミシュリーヌ様のその言葉にお願いしますと答えると、数秒後には神界のソファー近くに立っていた。
俺がソファーの定位置に腰掛けると、さっそくミシュリーヌ様が目の前に王宮の様子を映し出してくれる。
「ここが王宮よ」
ミシュリーヌ様が指し示したのは、高い尖塔がたくさん立ち並んでいる建物だった。
「不思議な形ですね……」
「この国は高い場所は神に近いと思ってるみたいで、身分が上がるほど高い場所に住むらしいわ。登るだけで大変なのに、馬鹿よねぇ」
ミシュリーヌ様は呆れた表情だけど、それが宗教というものだろう。神のためなら不便を普通に受け入れられるって凄いよな。
「一番高いところに国王がいるんですか?」
「ええ、国王の私室はそこね。ただ今は執務室にいるみたいよ。執務室は尖塔じゃなくて真ん中にあるこの建物の最上階にあるわ。ラースラシア王国への襲撃が失敗したことで、執務室でこれからのことを考えてるみたいね」
「ちなみに……実験施設はどこでしょうか?」
「それは――ここよ」
王宮から視点が遠ざかり街全体を映すようになり、しばらくして画面には街の外れにある巨大な施設が映された。
「大きいですね」
「ええ、ここで生き残った人間や獣が王宮の警備をしているみたいだから、気をつけなさい」
「……分かりました。俺たちの力を見せつけるためにも勝たないとですね」
それから俺は転移先である王宮の執務室内をよく観察し、完全に覚えたところで下界に戻った。
「ファブリス、もうここから執務室の中に転移しちゃうよ。そこまで距離はないと思うし」
『分かった』
俺はファブリスが足を止めたところで大きく深呼吸をして――――転移を発動させた。
「なっ…………」
突然俺たちが部屋の中に現れたことで、執務室内にいた約十人ほどは完全に動きを止めた。国王は突然の出来事にこれでもかと瞳を見開いている様子だ。
「て、敵襲だ!! 救援を呼べ!!」
しかしすぐ我に返ったのか、周囲にいる護衛に指示を出す。この国王は無能ってわけじゃなさそうだな。体も鍛えているように見えるし。
「俺はミシュリーヌ様の使徒であるレオンだ」
『我はファブリス。ミシュリーヌ様の神獣である』
「今回は二つのことを伝えに来た。まず一つ目、金輪際ラースラシア王国や俺が関わる全ての人に危害を加えるな。それから二つ目、非人道的な実験は止めろ。ミシュリーヌ様がお怒りだ」
できる限り威厳が出るようにと低い声を意識してそう告げると、国王は少しだけ黙り込んでから……俺に鋭い視線を向けた。
「ミシュリーヌなどという邪神の手下だな!? エーデン様に危害を加えようというのか!」
やっぱり話し合いは無理か……こうして突然転移してきてることからも俺たちが特別な力を持ってることは明白なのに、それでもエーデンという神を信じ抜けるのは凄いよな。
「エーデンという者に興味はない。お前達がそれを信じるのは自由だ。しかし俺らに危害を加えるな。そして実験を止めろ。それさえ守れば今回の襲撃は見逃す」
「……邪神を世界に広める存在を見逃すわけがないだろう! 実験もエーデン様のためなのだ! 犠牲になった者たちも喜んでいるに違いない!」
国王はそう叫ぶと、自ら近くの壁に飾られていた剣を取って俺に向けた。
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