第475話 これからの話
ロジェは俺の言葉から敵の正体や事態の深刻さが分かったのか、少しだけ眉間に皺を寄せているように見える。ロジェが表情に出すなんて珍しいな。
「ロジェ、なんとなく内容は分かった?」
「はい。レオン様のお言葉から大体の状況は掴めました。エリディトラス王国が黒幕なのですね」
「そうみたい。国が相手なんて一番厄介だよね……それに魔素の結晶による実験もかなり大変な事態だと思う」
俺のその言葉を聞いて、ロジェは居住まいを正してから口を開いた。
「これからどう動かれますか?」
「そうだね……まずはマルティーヌに伝えたい。それから王宮でアレクシス様たちに報告かな。その後はすぐにエリディトラス王国に向かうことになると思う。できる限り犠牲者を減らすためには早い方が良いから」
「かしこまりました」
ロジェとローランを連れてマルティーヌのところに向かうと、マルティーヌは部屋に入った俺の表情で何かが分かったのか、笑顔を真剣なものに変えて俺にソファーを勧めてくれた。
「何かあったの?」
「マルティーヌ、さっきミシュリーヌ様から連絡が来て、敵の正体が分かったよ」
その言葉にマルティーヌは瞳を見開き、ごくりと生唾を飲み込んでから俺に続きを促す。
「まず敵の黒幕だけど――」
それからさっき聞いたことを余すことなく伝えると、マルティーヌは王女の顔で眉間に皺を寄せた。
「大変な事態ね」
「そうなんだ。……マルティーヌ、ここまで聞いても大丈夫?」
「ええ、もう傷は癒えているわ。心配してくれてありがとう」
「それなら良かった」
俺はホッとして、緊張していた体の力を抜いた。マルティーヌのトラウマを呼び起こさせるんじゃないかと心配していたのだ。
マルティーヌはそんな俺の隣に来て、手をぎゅっと握ってくれる。
「私は一緒に行けないけれど、気を付けて。レオンの安全を第一にして欲しいわ」
「もちろん。無理はせず、エリディトラス王国に住む人たちを助けてくるよ。それから魔素の結晶についても、これ以上の悲劇を生まないように対処する」
「信じているわ」
俺はマルティーヌの笑顔と信頼に勇気をもらい、ファブリスに乗って屋敷を出た。
『王宮に行けば良いのだな』
「お願い。少しでも魔力を温存したいから」
『分かった。これから敵と戦うのだものな』
ファブリスは何だか楽しそうに口端を上げている。やっぱりファブリスって好戦的だよね。
ちなみにファブリスは俺とミシュリーヌ様の会話をどちらも聞いていたので、事情は完璧に理解している。ミシュリーヌ様は基本的に俺に話しかける時には、ファブリスにも聞こえるようにしているのだ。
『魔素の結晶とやらで強化された獣がたくさんいるというのは楽しみだ。少しは骨のあるやつがいると良いな』
「骨のあるやつがいない方が良いんだけど……まあ、ファブリスなら負けることはないか」
『我が負けるなどあり得ん』
「でも気をつけてよね。相手は未知の力を持ってるかもしれないんだから」
ファブリスとそんな話をしていると王宮に到着し、俺たちはすぐにアレクシス様の執務室へと案内された。
「レオン、何か分かったのか?」
執務室に入ると、アレクシス様が緊張の眼差しで声を掛けてくれる。
「はい。ミシュリーヌ様から連絡が来まして、敵の正体が分かりました」
「なっ……本当か!?」
「本当です。順を追って説明しますね」
それから俺の話を最後まで聞いたアレクシス様とリシャール様は、厳しい表情で情報をメモした用紙を見つめた。
「まさかエリディトラス王国だったとはな。それに魔素の結晶についても、かなりの重大事項だ」
「地中に埋まっているとしたら、どの国でも同様の実験ができるということになります。これは我々の手に負えませんね」
「レオン、これからどうするのだ? 王宮を襲撃されたという現状では、相手に宣戦布告されたと捉え、エリディトラス王国に侵攻するというのも選択肢の一つだが……」
アレクシス様はその選択肢は極力選びたくないのか、眉間に皺を寄せた。
「いえ、戦争は避けましょう。関係ない多くの人が傷つくのは嫌ですから。今回は魔素の結晶のこともありますし、私がエリディトラス王国に乗り込もうと思います」
「……そんなに頼ってしまって良いのだろうか」
躊躇いを見せるアレクシス様に、俺はしっかりと頷いて見せた。正直に言うと、国として動く方が色々と面倒なのだ。俺が個人で使徒として動いた方がしがらみがなくて楽に対処できる。
「ミシュリーヌ様からも対処をお願いされていますし、気にしないでください」
「……分かった。ではレオンに任せたい。いつも本当に申し訳ないが、よろしく頼む」
「任せてください。私が対処した後に国として動いて欲しいことがあったら、その時には相談して良いでしょうか? 例えばエリディトラス王国を支配下に置くとか」
上層部がごっそりいなくなって、国家運営が正常に続けられなくなるのが一番大変なのだ。そうなったら被害を受けるのはエリディトラス王国に住む何の罪もない国民だし、そこは何とかしたい。
「もちろんだ。食料なども送れるようにしておいた方が良いな」
「そうですね。できればよろしくお願いします」
そこで話に一区切りが付いたので、俺はソファーから立ち上がった。
「エリディトラス王国では毎日犠牲者が出てると思うので、さっそく向かいたいと思います。何かありましたら中心街の礼拝堂から、ミシュリーヌ様を通して連絡してください」
俺のその言葉にアレクシス様が恐縮しつつも頷いたところで、俺はファブリスの背中に乗った。
「では行ってきます」
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