第472話 無事の知らせ
行きと同じように街中をファブリスに駆けてもらい、王宮の城壁も飛び越えて敷地内に入ったところで、俺は転移を発動させた。
短距離の転移なら問題なく発動でき、アレクシス様たちが待つ執務室の中に無事着地する。
「レオン! マルティーヌは……」
俺たちの姿が現れた瞬間にソファーに座っていたアレクシス様が立ち上がり、俺と一緒にファブリスに乗るマルティーヌを視界に入れたところで……瞳を潤ませて動きを止めた。
「お父様、ご心配をおかけして申し訳ございません。レオンのおかげで無事に帰還することができました」
ファブリスから降りたマルティーヌがフードを脱いで笑みを浮かべると、アレクシス様はマルティーヌに一気に駆け寄って力強く抱きしめる。
「マルティーヌ……無事で良かった!」
「ふふっ、お父様、苦しいです」
マルティーヌはそう言いつつも嬉しそうだ。俺は二人の様子を見て安堵し、緊張していた体の力を抜いた。
「マルティーヌを危険に晒すようなことになってしまってすまない。これからはもっと護衛を増やし、城の警備も厳重にしよう」
「はい。お母様やお兄様、クレメントは無事でしょうか?」
「皆は無事だ。王宮ではマルティーヌだけが狙われたらしい」
「そうですか……」
それからエリザベート様とステファンも執務室にやってきて、皆でマルティーヌの無事を喜ぶ。
「本当に良かった。レオン、マルティーヌを助けてくれてありがとう」
「当然だよ。助けられて良かった」
「……敵の正体は分かったのか? 私は正体不明の特殊能力を使う人間と獣に、王都と王宮が襲われたとしか聞いていないのだが」
ステファンのその言葉に、皆の視線が俺に集まった。
「いや、俺もまだ分かってないんだ。敵は何人もいて数人が逃げたから、ミシュリーヌ様に監視してもらってる。そのうちアジトとかに帰ると思うから、どういう組織なのかは分かると思うんだけど……」
あの特殊能力はなんなんだろうな。実際に相対してみて、明らかに普通の人間と獣ではなかった。
まず獣は姿形が変わっていて、身体能力があり得ないほどに上がっていたと思う。それに人間もあの速度で走る獣を乗りこなしていただけじゃなくて、狙いを定めて魔法を放ってきて、その魔法の威力は今まで見てきた他人の魔法の中で一番威力があって……
ファブリスだったから追いつけて倒せたけど、普通の人たちがあの獣や人間と戦うとなると、相当な被害を被るだろう。
「ミシュリーヌ様、敵について何か分かりましたか?」
俺がいくら考えたところで答えは出ないと思ってミシュリーヌ様に呼びかけると、すぐに反応があった。
『まだほとんど分かったことはないわね。とりあえず逃げたやつらが向かってるのは北西方向で、一人の男は火魔法と水魔法を両方使いこなしてるってことぐらいかしら』
「え!? それってかなり重要じゃないですか……? この世界の人達は一人一属性ですよね?」
『そうなのよ。だからどこか別の世界とまた繋がったのかと思ったのだけど、探しても時空の歪みは今のところ存在していなくて……』
時空の歪みが存在しないとなると、あいつらはどこからやってきたんだろう。この世界で進化した……って可能性は限りなく低いと思うけど、それぐらいしか思いつかない。
大陸の端で別の進化を遂げていた人たちがいたとか?
『とりあえず、これからも監視を続けるわ』
「分かりました。よろしくお願いします」
ミシュリーヌ様との会話を終えた俺は、得た情報をアレクシス様たちにも共有する。
「北西方向か……いくつかの大国と小国が数十ある地域だな。我が国とは文化が大きく異なる国が大半で、あまり交流が盛んではない」
「そうなのですね……怪しい国や場所に心当たりはあるでしょうか」
「――いや、思い当たることはないな。役に立てずすまない」
「いえ、交流がないならば仕方ないです」
でも交流があんまりないのに、なんで襲ってきたんだろう。マルティーヌを狙ったというのも不自然だ。ラースラシア王国に打撃を与えたいなら、次代の王であるステファンを狙うのが普通だと思うんだけどな……マルティーヌを狙ったとなると、狙いは俺とか?
「レオン、またここが襲われる危険性はあるだろうか」
「そうですね……ないとは言い切れないです。とりあえず俺はしばらく王都にいることにします。マルティーヌはこっそり大公家の屋敷に来る?」
襲われた部屋にいるのは怖いかなと思ってそう提案すると、マルティーヌはほっとしたような笑みを浮かべて頷いてくれた。
「ありがとう。レオンの近くにいられた方が安心できるわ」
「レオン、マルティーヌを頼む」
「はい、任せてください」
それからはマルティーヌが身支度を整え大公家でしばらく暮らす準備をするために自室へ戻り、俺はマルティーヌの準備が終わるまでの間にロジェとローランを迎えに行くことにした。
二人には連絡するかもしれないということで、中心街の礼拝堂に行ってもらっているのだ。
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