第459話 ミシュリーヌ様とマルティーヌ
「マルティーヌ、この中だけならいつも通りに話して良いよ」
俺のその言葉を聞いたマルティーヌは、さっきまでの少し緊張した笑顔をふわっとしたいつもの笑顔に変えた。
「レオン、ありがとう。少し息抜きがしたかったの」
「疲れたらいつでも言って。転移で屋敷に戻ることもできるから」
「ええ、ありがとう」
「男言葉を使うのは大変そうだったね」
ぎこちない口調のマルティーヌを思い出して微笑ましく思っていると、マルティーヌは俺の顔を見て少しだけ唇を尖らせた。
「もう、変だって思ってるんでしょう?」
「ははっ、そんなことないよ。可愛いなって思ってただけ。なんか一生懸命で。参考はステファン?」
「ええ、お兄様とレオンとお父様とって、身近な男性を思い浮かべて頑張ってみたんだけれど……やっぱり普段の口調が出るわね」
マルティーヌは悔しそうに少しだけ眉間に皺を寄せた。
「どうせなら上手くやりたいのだけど」
「参考にする人を一人に絞った方が良いんじゃないかな。騎士志望の設定なら、参考にするのはリュシアンとか。ステファンはちょっと威厳がありすぎるから」
「リュシアンね……レオン、かなり街が賑やかになってきてるな! こんな感じかしら?」
「はははっ、それ、めっちゃリュシアン」
懐かしいなぁ。リュシアンにも会いたい。王立学校を卒業してからだから、もう半年以上会ってないのか。結局忙しくてマルティーヌとステファン、ロニーの三人とリュシアンに会いに行くって話も後回しになってるんだよな。
今度まずは俺一人で会いに行こうかな。俺だけならすぐに行って帰って来れるし。
――というか今気づいたけど、今の転移距離ならタウンゼント公爵領まで直接行けるんじゃない?
大公領にあと一時間のところまで行けるんだから、絶対行ける。うわぁ、なんで今まで気づかなかったんだろ。リュシアンマジでごめん!
とりあえずマルティーヌが王都に帰ったら、一度リュシアンのところに行ってみよう。
「これからはリュシアンのイメージでやってみるわ」
「うん。無理せず頑張って。楽しむことを一番にね」
「ええ、ありがとう」
「じゃあ祈ってまた別の場所に行こうか」
今度こそマルティーヌの手を取って一緒に神像の前に行き、俺も祈りの体勢を作った。こうして祈るのってめちゃくちゃ久しぶりかも。というか、もしかしたら初めて?
――ミシュリーヌ様、スイーツの食べ過ぎ注意ですよ。
『レオン、それは祈りの言葉じゃないわよ!?』
「あれ? 聞こえてましたか?」
『聞こえてるわよ!』
「すみません。でも本当に気をつけてくださいね。ミシュリーヌ様、最近は神力が潤沢だからってスイーツを食べすぎてる気が……」
『そ、そんなことないわよ』
そこでミシュリーヌ様の声が聞こえなくなったなと思ったら、隣にいるマルティーヌがハッと顔を上げた。もしかしてミシュリーヌ様、マルティーヌだけに聞こえるように神託してるな。
「か、かしこまりました……」
「マルティーヌ、ミシュリーヌ様の言うことは聞かなくて良いから。どうせレオンにもっと私に優しくするように言いなさいとか、もっとスイーツを食べて良いと言いなさいとか、そんなところでしょ?」
『ちょっとレオン、なんで分かったのよ!』
「ミシュリーヌ様の考えてることは単純すぎてすぐ分かります。ミシュリーヌ様、マルティーヌに変なことを吹き込まないでください」
俺がミシュリーヌ様に抗議していると、隣のマルティーヌが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「レオン、そんなに強く言っても大丈夫なの? ミシュリーヌ様が怒られたりとか、気分を害されたりとか……」
そっか。マルティーヌは俺と一緒にいる時間がまだあんまり長くないから、ミシュリーヌ様の本性を分かってないんだな。
ロジェやローランは俺とミシュリーヌ様が話してる様子をよく部屋で聞いてるから、俺たちの関係性に関しては理解してくれてるだろうけど。
「ミシュリーヌ様にはこのぐらいで良いんだ。いつもこんな感じで話してるから気にしないで」
「……そうなの?」
「うん。これから一緒にいる時間が長くなれば慣れると思う」
「そうなのね……でもレオン、少しは優しくね?」
うぅ、マルティーヌにそう言われたら首を横には触れない。頭の中でミシュリーヌ様の『よく分かってるじゃない!』というテンション高い声が聞こえていたとしても。
「わ、分かった」
『じゃあレオン、私の一日のスイーツ上限を完全に撤廃するっていうのは……』
「それは絶対にダメです」
それから俺たちはミシュリーヌ様と色々な話をして、マルティーヌが少しだけミシュリーヌ様に親近感を覚えたところで礼拝堂を後にした。
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