第445話 領都決定

 ファブリスに揺られること約十分。俺達は新しい礼拝堂の前に立っていた。何もない荒野にポツンと現れた礼拝堂を見ていると、改めてミシュリーヌ様の凄さを思い知る。


「凄いですね……」

「本当だよね。中に入ってみようか」


 呆然と礼拝堂を見上げる皆に先んじて、俺は礼拝堂の扉に手をかけた。そしてゆっくりと開くと……中は王都の中心街にある礼拝堂と全く同じ作りだった。ベンチなどが置かれていないところが違うだけだ。


 この礼拝堂は全体が神の遺物で劣化はしないし傷も付かないから、本当にそっくりそのまま同じだな。


「ミシュリーヌ様、完璧です」

『良かったわ! 礼拝堂は一つだけで良いの? 他の街にも作りたいならまた落とすわよ』

「いえ、とりあえず大丈夫です」


 まだここを領都として整えるのに精一杯で、他の街づくりに着手できるのなんてしばらく先だ。それに神域である礼拝堂は領都に一つあれば良いかなと思っている。たくさんあったらありがたみが薄れるし、領都にしかないからこそ人が移動してくれるだろう。

 

『分かったわ。じゃあまた何かあったら呼んでね』

「はい。ありがとうございました」


 そうしてミシュリーヌ様との通信を切った俺は、皆と礼拝堂の様子をもう一度見回してから外に出た。


「まずは何からしようか……どんな街にするのか決めないとだよね」

「はい。とりあえず、海までどの程度の距離があるのかを正確に知るべきではないでしょうか。それによってここを港町にするのか、そうは出来ないのかが決まると思います」


 ロジェのその提案によって、俺はさっきまでのミシュリーヌ様の言葉は皆に聞こえていなかったことを思い出した。


「それはミシュリーヌ様が教えてくれたんだ。ここから十キロぐらいだって」

「十キロですか……」

「それは少し遠いね」


 アルノルとロニーが顎に手を当てて考え込む。日本の街なら十キロはそこまで大きくないだろうけど、この国の街で十キロにも渡って広がってるっていうのは相当に広い街だ。そこまでの街を作り上げるのは大変だよな……

 そういう大きな街だって最初はもっと小さくて、だんだんと広がっていったんだろうし。


「領都を港街にするのは難しいかもね。領都はここに作って、港街は漁業を中心とした海産物中心の観光地にしようかな」


 できる限り領都を広げるときには港街方面に広げていくことにしよう。そうすれば、将来的には二つの街をくっつけることもできるかもしれない。


「まずは領都から作られますか?」

「そうだね。とりあえず……今日中に少し礼拝堂の周りを整えようか。大公邸を作ってもらうにしても、雇ってきた人達が住む場所がなかったら大変だから」


 それから商会にもいくつか声をかけよう。俺がアイテムボックスから売っても良いんだけど、それだと街は発展しないだろう。


「では簡単な図面を書きましょう。あまりにも適当に建物を作ってしまっては、道を通すのも大変になってしまいます」

「そうだね。まずは大公邸の場所なんだけど、やっぱり礼拝堂の近くが良いと思う?」

「……いえ、少し離れた場所でも良いかと思います。礼拝堂は領民が足を運びやすい場所の方が良いのではないでしょうか。王都の礼拝堂も、中心街の奥にあるので平民が足を踏み入れにくいという声も上がっております」


 確かにね……中心街は貴族の屋敷が立ち並んでいて、お店も高級な外観のものが大多数だ。平民は気後れするだろう。


「ロジェ、ありがとう。じゃあ大公邸は礼拝堂から離れた場所にしよう。そうだね、海寄りに一キロは離そうか」

「かしこまりました。では大公邸から大通りを礼拝堂までまっすぐ通して、その通り沿いは高級なお店や商家が連なるようにしましょう。そして礼拝堂から先は平民街です」

「それは良いかも。……あっ、でもそれだと大公邸は海と反対を向くことになるよね。この先で街を海側に広げたいから、できれば逆向きが良いかな」


 大公邸の後ろに街を広げるのは少し抵抗がある。広い街になれば大公邸の向きなんて関係ないのかもしれないけど、特に最初のうちは気になるだろう。それに海側にばかり街を広げるのなら、大公邸は街の端にあって街の外を向く形になってしまう。


「確かにそうですね……では礼拝堂からの大通りを海とは反対側に伸ばして、その先に大公邸を海と礼拝堂の方を向くように建てますか?」

「うん、それが一番良いかな。しばらくは大公邸が街の端にあるような形になるけど、街全体を見渡せる位置ってことで良いと思う」

「レオン、それならあの丘の上に大公邸を立てれば良いんじゃない?」


 ロニーがそう言って指差した丘を、全員が一斉に視界に入れた。確かにそれはありかもしれない。ここからあの丘までは……二キロぐらいかな。海を背にして右斜め前辺りにあるけど、別に海に対して垂直に大公邸を建てなければならないわけじゃない。


「私は賛成です。丘の上ならば警備もしやすいかと」


 護衛のローランが初めて言葉を発した。元々は騎士だったローランがそう言うなら、丘の上は一気に第一候補だ。


「ここから見た限りではなだらかな丘ですし、馬車での行き来も大変ではなさそうですね」

「じゃあ一度見に行ってみよう。この距離なら……転移で行こうか」


 その言葉を聞いて皆が周りに集まってくれたので、俺はすぐに転移を発動した。すると瞬きほどの時間で丘の上に到着する。


「おおっ、礼拝堂もよく見えるね」

「何も障害物がありませんと、やはり見晴らしが良いですね」


 丘の上は下から予想していた以上に広かった。これなら大公邸を建てて庭も十分な広さが取れるし、さらに俺専用の畑や温室なんかも作れそうだ。


「ここにしようか」

「そうですね。私は賛成です」


 ロジェのその言葉に他の皆も頷いてくれて、満場一致でこの場所に大公邸を建てることに決まった。

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