第446話 簡易的な街づくり
ここに大公邸を建てるとして、今回やっておくべきなのは建築を担当してくれる人達の住まいとなる建物づくりかな。さすがに何もない領地に連れてきて、自分たちが住む場所の建築から始めて欲しいと言うのは酷だろう。
簡易的なものでも家があるっていうのは違うはずだ。
「職人さん達の住まいはどの辺が良いかな?」
「そうですね。先ほどの話を合わせるならば、こちらの丘から礼拝堂までは大通りを通して高級店街とすることになるので、その先が良いかと」
「そうだね。……あのさ、一つ聞いても良い? 高級店街って具体的にどんなお店が入るの?」
王都なら貴族がたくさん住んでいてその貴族向けのお店ができて……と中心街の成り立ちも分かるけど、この国で領地にいるのはその領地を治める貴族だけだ。
今までも公爵領に行ったりしてたけど、あんまりその辺は気にしたことがなかった。
「他の領地の事例から考えますと、まずは大公領に進出したい商会の建物が建てられるかと思います。そしてその商会の方々が、買い物をしたり食事をしたりするお店も作られるかと。さらに別の貴族や商人が大公領までやってきた際の高級宿も必要です」
「確かに。意外と色々必要になるね」
俺はロジェの説明を聞いて何度も頷いた。それは一つにまとめておいたほうが便利だし、最初からそういう通りを作るべきだね。
それにこの街には神域である礼拝堂があるんだから、貴族や商人、その他のお金を持っている人達が礼拝目的で旅行に来ることは多くなるのかもしれない。その場合は、そういう人達向けのお店がたくさん建つことになるだろう。
「じゃあその通りの部分は土地を確保しておいて、礼拝堂よりも向こうにいろんな工房となる建物を作ろうか」
「それが良いかと思います。……建物は、今レオン様が作られるのですか?」
「一応仮のものはね。でもしっかりとしたものは無理だから、それは領地に来てくれた本職の人に任せたいと思ってる」
俺が作れるのはあくまでも土魔法を駆使した建物だから、平民の間で一般的に作られている木造の建物は無理なのだ。
「仮住まいがないと、領地に来てくれる人を募集しても来てくれないでしょ?」
「……確かに、家があるのとないのとではかなり違うと思います」
「だよね。だからこれから作るよ」
まず必要なのは、何よりも建築工房で働く人達の住居だ。そして建物を建ててもらうのに必要な材料を運搬、販売してくれる商会の建物も必要になる。
「木材を扱う商会は高級店街じゃないほうが良いよね?」
「はい。王都でも工房が立ち並ぶ場所に位置していることがほとんどです」
「了解」
後は来てくれた人達が食べるものに困らないように食品を運んでくれる商会と、さらに食堂も一つは欲しい。そしてその人達が住む住居も必要だ。
そうして必要な人達の住居とお店や工房を、土魔法を使って次々と建てていった。複雑な作りは無理なので、全て平屋で部屋は一つだけの簡素な建物だ。とりあえずはこれで我慢してもらって、まずは自分たちが住む場所から作り始めて貰えば良い。
「これで良いかな」
「……素晴らしいですね」
「レオンって改めて規格外だよね」
俺がやり切ったと皆を振り返ると、ロニーは苦笑を浮かべていて、ロジェも僅かに呆れたように口元を緩め、ローランは瞳を輝かせて、アルノルは驚いたのか瞳を見開いていた。
アルノルはまだ俺に慣れてないんだな。ローランは……何をしても尊敬してくれるから、慣れるとかいう問題じゃない気がする。まあ俺がやることに瞳を輝かせてくれるのは嬉しいから良いんだけど。
「他に必要なものが思い浮かぶ人はいる?」
「うーん、井戸やトイレはどうするの? 最初に整備しちゃったほうが良い気がするけど」
「確かに! ロニーさすが」
大公領では平民が住む場所まで全て下水を通そうと思ってたんだ。下水の工事をできる人達も連れてくるのならもう少し住居を増やして……最初の数ヶ月は仕方ないから汲み取り式のトイレかな。街が汚れないように、俺が定期的にピュリフィケイションをすれば良いだろう。
そうしてさらに仮の街を便利に作り上げていく。井戸は掘ったら出てくるのだろうか。
「誰か井戸の掘り方を知ってる?」
「一応存じておりますが、井戸は掘ることよりもその後に使えるように整えるまでが大変らしいです。そこは専門家でなければ難しいかと」
「そうなんだ。じゃあそこも誰かを雇わないとだね。とりあえず、水が出るのかだけ確認しようか」
それから俺はロジェに井戸の掘り方を聞いて、土魔法で簡単に井戸を掘っていった。地球ではもっと大変な作業なんだろうな……土魔法が便利すぎる。
掘ること数分で、地下から水が滲み出てきた。そこからさらに少しだけ掘ると、かなりの量の水が溢れ出てくる。
「これは素晴らしいですね」
「水の量は多いほう?」
「はい。この程度の深さでここまで出るのならば、水の心配は要らなそうです」
「それなら良かったよ」
感心したように地下を覗き込むアルノルは、楽しげな瞳で水が湧き出るのを眺めている。こういうのが好きなのかな。
「これで今できる準備は終わったし、王都に帰ろうか。王都に戻ったら領地に来てくれる人を募集して雇って、その人達を領地に送り込んでって忙しくなるよ」
「またたくさん雇わなければなりませんね」
「本当だよね……何人必要なんだろう」
「たくさん必要だからといって変な人を雇うことはできませんので、大公家が様々な種類の領民を募集していると、国全体に広めるべきかもしれませんね」
ロジェが発したその言葉に、ロニーもアルノルもローランも全員が頷いている。皆はやる気満々みたいだ。凄く頼もしい。
『主人、帰るのか?』
「うん。また乗せてくれる?」
『それはもちろん構わないが……帰る前に魔物の森に寄っていかないか? 我は久しぶりに動きたいぞ』
そういえば、最近は魔物の森の駆逐にあんまり時間を割けてなかったんだよな……確かにここらで思いっきりやっておきたい。
「分かった。じゃあ魔物の森の近くで皆を下ろしてから、俺とファブリスだけで行こう」
『相分かった。では乗ると良い』
そうして俺はファブリスの要望に応えて、半日ほどは魔物の森で暴れまくって森をかなり押し返した。そしてファブリスが満足したところで、皆で王都に戻った。
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