四章 大公領編
第444話 領地へ
夏の暑さのピークが過ぎ、そろそろ涼しくなるかなという頃。俺は大公領の開発に着手するために、少数の使用人を連れて魔物の森の跡地に来ていた。
ファブリスに乗って一緒に来たのは、ロジェとアルノル、ロニー、ローランの四人だ。ファブリスから降りた俺以外の四人は、この光景を見るのが初めてだからか何もない荒野をひたすら眺めている。
「何もないね……」
ロニーがポツリと呟いた言葉が聞こえてきた。
「そうなんだよ。でもだからこそ、なんでも作れるってことだと思わない?」
俺がロニーの顔を覗き込みながらそう言うと、ロニーは途端に楽しそうな笑みを浮かべる。
「レオンっぽいよ。確かにやる気は出るね」
「でしょ? 魔植物の種も残さないようにって、表面の土を焼いたりアイテムボックスで消したりしちゃってるから、雑草もほとんど生えてないし本当に一から作れるよ」
魔物の森を駆逐している時は細かい葉っぱはそのままにしてるんだけど、後から火魔法で焼いたり土を消したりと対処をしているのだ。そのおかげでというか、その影響でというか、ここら一帯は雑草も生えていない荒野になっている。
ただ土が悪いというわけではなくむしろ畑などにも良い土なので、これから街を作るのにあたって問題はないだろう。
「レオン様、街はどこに作る予定なのでしょうか?」
「まだ決めてないんだけど、海の近くが良いかなと思ってるんだ。大公領の特産品は米だけど、それ以外に海産物も特産品にしたいんだよね。というか、観光地にしたいかなと思ってるんだ」
水族館とか海釣りが体験できる施設を作って、さらに美味しい海鮮料理をたくさん開発すれば食べにくる人達はいるはずだ。海鮮で出汁をとった料理とか、他の街と被らないように個性を出せば人は来てくれると思う。
これからこの国はどんどん豊かになっていく予定だし、そうなれば旅行をできるほどに裕福な層が増えると思う。そういう人達に旅行先に選んでもらえるような街づくりが目標だ。
王都や他の街と馬車の定期便を作るのもありだよな。やっぱり足がないと来れないから。
「海の近くですか。それは良いですね」
ロジェは海と聞いて少しだけ頬を緩めた。ロジェは前にタウンゼント公爵家の港町で海を見て感動してたし、あれからも海は憧れなんだろう。
「ではもう少し海側に移動しますか?」
「ううん。実は街の場所は俺達が大体は決めるんだけど、最終的にはミシュリーヌ様が決めるんだ」
俺はアルノルの問いかけに首を横に振り、ミシュリーヌ様に神域である礼拝堂を作ってもらう話を皆にした。すると皆は驚きながらも、さすがにずっと俺といるから慣れたのか受け入れてくれる。
「その礼拝堂にミシュリーヌ様が神託をしてくださるとなれば、観光客がまた増えそうですね」
「うん。でも王都にも今まで通りに顔を出されるらしいから、来るのは王都が遠い人達になると思うけどね」
これで王都への神託が途絶えて大公領ばかりで神像が光るようなことになってしまったら、最悪は王家と大公家の対立というように見る人もいるかもしれないので、そこには気を配っている。めちゃくちゃ仲良いのに、そんなふうに思われたら最悪だからな。
「じゃあミシュリーヌ様に礼拝堂の建築をお願いするよ」
俺のその言葉に四人とファブリスが頷いてくれたのを確認して、俺はミシュリーヌ様に呼びかけた。
『はいはーい。何かしら?』
「この前に話した大公領の礼拝堂のことなんですけど、今俺がいるあたりに作ってもらうのでも良いですか? できればもう少し海寄りだと嬉しいです」
『ああ、あの話ね! もちろんよ。王都にある礼拝堂と同じ作りで良いのよね?』
「はい。同じにしていただけると助かります」
それからミシュリーヌ様の声が途切れて、微かに何かを呟くような声が聞こえてきた。礼拝堂を作って地上に落とす場所を定めているみたいだ。
『できれば海寄りなのよね……このあたりに落とせばいけるかしら? いや、ここだと最悪は海の中になるわね。それは避けたいからもう少し内陸寄りに……』
そんなミシュリーヌ様の声がしばらく聞こえ、ついには準備が整ったのか、ミシュリーヌ様の明るい声が聞こえてきた。
『準備完了よ! 作っても良いかしら?』
「はい。お願いします」
ミシュリーヌ様によると地上に落とすという表現をしてるけど、物理的に空から落ちてくるんじゃなくて強く光った場所の光が消えると、もうそこには礼拝堂があるのだそうだ。
近くだったらその様子が見れるかな……そう期待しながら待っていると、特に光なんて見えずにミシュリーヌ様の言葉が耳に入ってきた。
『できたわよ!』
もうできたのか。周りを見回してみてもどこにあるのか全く分からないので、かなり遠くだったみたいだ。
『ちょっと予定の場所よりも逸れたわね……海まで十キロってところかしら。魔物の森に結構近い場所になったわ』
「そうなのですね。案内してもらえますか?」
『もちろんよ』
「ファブリス、また乗せてくれる?」
『分かった。全員乗ると良い』
そうして俺達はファブリスの背中に跨り、ミシュリーヌ様の案内に従って大公領の領都となる場所に向かった。
〜あとがき〜
お待たせいたしました。4章スタートです!
また週に3回投稿していきますので、楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします!
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