第443話 魔物の森の跡地

 塔を爆破させるとすぐにファブリスが戻ってきて、俺達は街の外に逃げ出すことに成功した。とりあえず作戦は成功だけど、これで戦争が止められるかどうか。


「ミシュリーヌ様、エクスデ王はどうですか?」

『ふふっ、ふふふっ、めちゃくちゃ面白いわよ。効果は抜群ね』

「そんなに怖がってますか?」

『おしっこちびって、というよりも垂れ流して、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で第三王子を血眼になって探してるわ』


 うわぁ……想像もしたくない。めちゃくちゃ汚いじゃん。でも効果があって良かったな。これでもう戦争をするなんて言い出すことはないだろう。


『あっ、第三王子を見つけたみたい。……王位を譲るらしいわよ。それで別荘に隠居するって』

「おおっ、最高の結末ですね。第三王子は困惑してませんか?」

『してるわね。でもバルコニーにいた騎士達に話を聞きに行くみたいだから、大丈夫じゃないかしら。あの様子なら上手くやるわよ』


 それならこの国はもう大丈夫かな。とりあえずしばらくは様子見で良いだろう。


「ミシュリーヌ様、しばらくは監視しておいてもらえますか? また何かをやらかしそうになったら教えてください」

『分かったわ』

「じゃあ、作戦は大成功で終了ですね」

『そうね! お祝いに三人でスイーツパーティーでもやりましょうか!』

「いや、それほど大変でもなかったですし、スイーツパーティーはいらないんじゃ……?」


 俺のその言葉はミシュリーヌ様によって食い気味に否定され、俺とファブリスはその数秒後には神界に呼ばれていた。


「うふふ、たくさん食べるわよー!」


 ミシュリーヌ様は満面の笑みを浮かべて拳を振り上げていて、俺とファブリスは苦笑するしかできない。ここでダメっていうのも可哀想だし、スイーツパーティーに付き合おうかな。


「少しだけですよ」

「さすがレオン、話が分かるじゃない!」

「ミシュリーヌ様、我はミルクレープが食べたいです」

「分かったわ!」


 それから俺達はハイテンションなミシュリーヌ様につられて、楽しくスイーツを食べた。そしてミシュリーヌ様が三十個目のスイーツを食べ切ったところで、さすがに新たにスイーツを作り出すのを止めてパーティーは終わりにした。


「じゃあミシュリーヌ様、また何かあったら教えてください」

「分かったわ。またね〜」


 満面の笑みのミシュリーヌ様に見送られて下界に戻ってくると、神界に呼ばれた瞬間の時刻のままだった。改めて神界にいると、下界の時間が進んでないのが不思議だ。


「うぅ〜ん、この体が食べたわけじゃないのにお腹がいっぱいな気がする」

『分かるぞ。我は少し腹ごなしに動きたい』

「そうだよね……ついでに魔物の森に行こうか。ここからならすぐだしさ」

『確かにそうだな。では主人、背中に乗ってくれ』

「了解」

 

 それからファブリスに揺られること三十分ほどで、俺達は魔物の森に辿り着くことができた。魔物の森は俺達と騎士達の頑張りでかなり押し返せていて、すでに数キロにわたって魔物の森の跡地がある。


「そろそろ大公家の領地経営も始めないとかな」

『ここら一帯は全て領地になるんだったか?』

「そうなんだよ。そろそろ前線の街から魔物の森までの距離も遠くなりすぎてるし、領都を作るついでに前線の街も魔物の森に近づけようかなって」


 魔物の森に飲み込まれてしまった街はほとんど原型をとどめていなく、街があったことさえも分からない場所がほとんどなので一から作るしかない。

 ポジティブに考えれば、全て俺が自由に作れるということだ。


『それは大変そうだな』

「まずは最低限の住環境を準備したら人を連れてきて、建物を作ってもらって、農地を作って、お店を作って……気が遠くなるね。それにそんなに人を集められるのかも問題だよ」


 給与とか待遇面を良くすれば人は集まってくれると思ってるけど、魔物の森に近い場所にわざわざ引っ越したい人ってどれだけいるのだろうか。意外と苦戦するかなぁ。


 そうだ、神域である礼拝堂をミシュリーヌ様に落としてもらうことってできるのだろうか。誤差が数十キロって言ってたけど、特に街の場所を決めてはないから落ちた場所を街にすれば良い。

 ミシュリーヌ様が頻繁に姿を現す教会があると噂が広まれば、その街に移住したい人も増えるんじゃないだろうか。


 ちょっとズルな気もするけど、俺は使徒なんだしこのぐらいは良いよね。


「ファブリスは何か欲しいものがある? なんでも作れるから、領地にこれがあったら良いなとかあれば実現するけど」

『そうだな……我は今の生活に満足しているぞ。ただ我の家がもっと広ければ嬉しいな。それから家の中にも緑があると尚良い』

「もっと広い家と緑ね。了解」


 ファブリスの家はおしゃれな別荘みたいなやつを作るかな。ファブリスが自由に食べられるように果物を植えたりするのも良いかも。


 温室とか米を大量生産する農地とか、俺も色々と作りたいものがたくさんあるし、やっぱりそろそろ領地にも手を出そう。

 大きなイベントは一通り終わったから、ちょうど良い時期のはずだ。


「魔物の森を駆逐するついでに、街を作りたい場所も大体は決めちゃおうか。できれば海の近くが良いかなって思ってるんだよね。海鮮料理も広めたいから」

『そうだな。ならば今回は海側を駆逐していくか?』

「そうしよう。大公領にも港を作りたいよね」

『うむ。我は海鮮料理も好きだぞ』


 領地を一から作り上げるのは想像以上に大変だと思うけど、それ以上に凄く楽しみだ。自分好みの街を作れるなんて最高だよね。

 この機会にミシュリーヌ様が望む街も作ろうか。ちょっと昔の日本の街並みを再現した通りとか。着物や浴衣を再現するのもありかも。


 着物を着たマルティーヌとか……想像するだけで絶対に可愛いな。よし、着物や浴衣に関する本をシェリフィー様にお願いしよう。これは決定事項だ。

 花火大会とかも再現できたら楽しいだろうな……浴衣のマルティーヌと見て回りたい。


 ヤバい、領地経営がめちゃくちゃ楽しみになってきた。醤油や味噌も作り方の本を頼んで研究したいし、そろそろ和菓子にも手を出そう。日本風の街並みを再現したところに、和菓子を出すお茶屋さんとかあったら雰囲気あって良いよな。観光地にもなるだろう。


「ファブリス、早く領地を発展させたいから魔物の森の駆逐を頑張ろうか」

『了解した。では行くぞ』

「うん。よろしくね」


 そうして俺はこれからの領地経営と、自分が好きなように作り上げた街での生活に想いを馳せながらファブリスに揺られた。これからも楽しみなことがたくさんあるな。





〜あとがき〜

これにて3章完結となります!

とても長い物語になっていますが、追いかけてくださっている皆様、本当にありがとうございます。皆様のおかげでここまで書き続けられています。

しかしまだまだレオンの物語は続いていきます。書きたいお話がたくさんありますので、この先も今までと同様に楽しんでいただけたら嬉しいです。


レオンがついに大公領の開発に着手する4章ですが、少しお休みをいただいて数週間後からスタートできればなと思っております。

少し本編でも出て来ましたが和菓子など日本風な街並みの再現や醤油や味噌の開発、海産料理の発展や他にも様々なことに挑戦していきます。シュガニスの平民向けのお店もまだ出店していませんし、他国にスイーツを広める計画もまだまだです。領地に戻っているリュシアンもまた登場予定ですし、マルティーヌも婚約者として領地開発にこっそり関わるかもしれません。4章も盛り沢山な内容になる予定ですので、楽しみにしていただけたら嬉しいです!



そんな4章が始まるまで少し時間がありますので、ここで新作のご案内をさせてください。本日「転生したら平民でした」の3章完結を記念して、新たに長編の連載をスタートしました。


「転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜」というタイトルなのですが、こちらは私がずっと書きたいなと思っていて温めてきたお話です。

私にとってはすっごく面白いお話になっていますので、皆様にも刺さったら嬉しいなと思っています。下にリンクを貼っておきますのでぜひ読んでみてください。

面白いと思ってくださった方がいましたら、感想などいただけると作者が飛び上がって喜びます。よろしくお願いいたします!


↓リンクです。よろしければ覗いてみてください。

https://kakuyomu.jp/works/16817330651502142489



では皆様、「転生したら平民でした」ではまた数週間後にお会いしましょう。新作など他の連載作を読んでくださっている方は、そちらもよろしくお願いいたします!


蒼井美紗

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