第431話 教会の様子

 家族四人で列の一番後ろに並ぶと、続々と俺達の後ろにも列に並ぶ人達がやってきて、礼拝待ちの列はどんどん長くなっている。


「こんなに人がいるとは驚いたな」

「本当よね〜でもミシュリーヌ様にお祈りすると願いが叶うって話じゃない。来ない選択肢はないわよ!」

「確かにそういう噂は聞くけどよ、それは中心街の教会に行かないといけないんじゃなかったか?」

「そんなの分からないじゃない。同じ教会だもの。でもいつかは中心街にも行きたいわね〜」


 俺達の後ろに並ぶ若い男女二人の会話が聞こえてきた。ミシュリーヌ様がコツコツと神像を光らせて神託をしてる効果は出てるみたいだ。やっぱり実在していて下界に干渉できる神への信仰心を高めるのなんて、そんなに大変じゃないんだよね……今までなんでこんなに信仰されてなかったのか、そっちの方が不思議なぐらいだ。


「お兄ちゃん、あそこのりんごジュース飲みたいから買ってきても良い?」

「もちろん良いよ。一緒に行こうか」


 マリーに声をかけられたことで後ろの二人の会話から意識を戻され、マリーが指差した屋台を見た。りんごジュースというか……水で薄めたりんご水を売ってるみたいだ。まあここは中心街じゃないし、果物は高価だから100%のりんごジュースは無理だろう。


「父さん母さん、並んでてくれる?」

「もちろんよ」

「レオン、父さんにはレモン水を買ってきてくれないか?」

「了解」


 そうして屋台で飲み物を買って休憩しながら列に並ぶこと数十分。やっと教会の中に入ることができ、ミシュリーヌ様にお祈りをすることができた。まあ俺は祈ることなんてないから、形だけになったけど。


 家族皆はかなり熱心に祈ってたみたいだ。まだ三人はミシュリーヌ様と話をしたことはないんだけど、今の自分達の立場はミシュリーヌ様のおかげだって認識から、熱心な信徒なのだ。

 今度中心街の礼拝堂を貸し切って三人を連れて行くのもありかな……あそこならミシュリーヌ様と三人が会話をすることができるし。ただミシュリーヌ様はあんな感じだから、話をしたら夢を壊しちゃうんじゃないかという懸念が拭いきれない。


 それから皆の祈りが終わって、教会の出口に大きく設置された屋台でクレープの生地を購入した。周囲の人を観察していると、祈りが届く可能性が上がると思っているのか、縁起が良いと思っているのか、クレープの生地を買っていく人はかなり多いみたいだ。

 屋台の中では孤児院の子供達が忙しそうに働いている。


「何も挟んでいないクレープの生地を食べることで、明日からまた一年、良い年になるようにって願いが込められてるんだ」

「一人一枚食べていってね〜」


 子供達はそんなふうに礼拝客を呼び込んでいる。俺が考えた適当な理由が浸透してるな……


「お兄ちゃん、生地だけも意外と美味しいね」

「焼き立てだと美味しいよね」


 生地を焼く時にバターを少し使ってるみたいで、香りがしてとても美味しい。これはちょっと癖になるかも。今度生地だけをたくさんもらって、アイテムボックスに収納しておこうかな。


「もうお腹いっぱいね」

「少し食べ過ぎたよ。たくさん歩いたし疲れたな」

「私も足が痛い」


 貴族ってどこに行くにも馬車で移動するし歩かないからね……平民だった時代よりも体力がなくなってるのは仕方がないだろう。平民はどこに行くにも自分の足で歩くしかないから。


「皆も剣術とか習う? マリーは少しやってるんだっけ?」

「ううん。まだやってないよ」

「そっか。じゃあ三人で一緒にやる?」

「それも良いかもしれないわね。動かないでたくさん食べてて太りそうだもの」

「少しは自衛もできるようになりたいし、ありかもしれないな」


 皆はそれぞれ護衛がいるから、護衛に頼むのが一番かな。俺の訓練の時間とも合わせたら楽しいかも。やっぱり一人でやる訓練って退屈なのだ。


「じゃあロジェに言っておくね。皆も従者とメイドに話をしておいてくれる?」

「分かったわ」

「今日帰ったら話をするよ」

「私も!」


 これで後はロジェ達が集まって訓練の時間を合わせてくれるだろう。俺は仕事の関係で皆に合わせられなかったら、休みの日だけでも一緒にやりたいな。



 それからも皆で話をしつつ屋台を覗いて楽しみながら、最初の広場まで歩いて戻った。そして約束の時間に馬車を降りた場所に向かうと、大公家のお忍び用の馬車が時間ぴったりに迎えに来てくれた。


「楽しかったかい?」

「うん! すっごく楽しかった!」

「良かったわ。クレープはどれも美味しかったわよね」


 皆が楽しんでくれて良かったな。やっぱり貴族としての肩書きがなくなると、いつもよりリラックスしてる気がする。貴族としての生活は豪華だけど、平民時代よりも気が抜けないのは確かだからね。


「皆、これから屋敷に戻ったら少し休んで、午後にはマルティーヌの出迎えだけお願いね」

「分かってるわ。私達は最初に挨拶だけしたら、その後は何もしなくて良いのよね?」

「うん。俺がマルティーヌに屋敷を案内して、その後はお茶会をするから」


 俺のその言葉に父さんと母さんはほっと安堵したような表情を見せる。やっぱり王女殿下相手は緊張するんだろう。でも段々と接する機会を増やして慣れてもらわないとだよな。いずれは家族になるんだから。


 マルティーヌと家族になるのか……なんか良いな、楽しみだ。俺は頭の中に将来像を描いて、ゆるゆると頬を緩ませた。


「マルティーヌ様と会うの久しぶりだね」

「マリーはあんまり会う機会がないからね。マルティーヌは喜ぶと思うよ」

「私も楽しみ!」


 マリーは満面の笑みでそう言ってくれる。本当にマリーは可愛くて良い子だな……最高の妹すぎる。マルティーヌとマリーがもっと仲良くなってくれたら嬉しいな。


「そうだ、マルティーヌに餃子をお披露目する? 屋敷の案内で家族用の食堂に案内して、食べてもらうのもありだけど」

「良いのかしら……? 餃子なんておしゃれじゃないけど」

「大丈夫だよ。マルティーヌはそういうの気にしないから」


 マルティーヌは甘いスイーツも好きだけど、食事も結構好きなのだ。餃子は新しいし気にいるはず。


「それなら……紹介させてもらおうかな。少しは交流を深めたいし」

「それもそうね。じゃあ最初に挨拶をしてから、私達は食堂へ向かうわね」

「了解。そしたら時間に余裕ができるように、食堂は後の方に案内するよ」

「ありがとう。頼んだわよ」


 そうして午後の予定を話し合っていると、馬車は大公家の屋敷に到着した。マルティーヌが来るまであと一時間ぐらいかな、凄く楽しみだ。



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