第429話 降誕祭当日
朝起きて窓から空を見上げると、カラッとよく晴れた青空が広がっていた。雨が降りそうな気配などなく、とても良い天気だ。今日は夏の月第一週、回復の日。そう、降誕祭当日だ。
「レオン様、おはようございます」
「ロジェ、おはよう」
「とても良い天気でございますね」
「うん、本当に良かったよ。雨だと皆が外に出なくなっちゃうから」
これなら屋台は賑わって、教会に足を運ぶ人も多くいるはずだ。どれほど盛り上がるのかはまだ未知数だけど、他の昔からある祭りと同じぐらい盛り上がったら嬉しいな。
「本日は皆様で平民街へ赴かれるのですよね」
「そうだよ。降誕祭がどのぐらい盛り上がってるのか確認したいからね。だから今日の服装は平民に紛れられる服装でよろしく」
「心得ております」
降誕祭が盛り上がるのは主に平民達が暮らす地区なので、今日は大公という身分を隠して一日だけ平民に戻り、屋台の賑わい状況や教会の様子を確認するのだ。俺一人で行こうと思ってたんだけど、家族皆にも祭りに参加したいと言われたので、父さんと母さん、マリーと一緒に行く。
皆の顔はほとんど知ってる人がいないし、服装さえ変えれば問題なく溶け込めるだろう。
「お昼時には帰ってくるから、午後の準備はよろしくね」
「もちろんでございます。王女殿下が初めてこちらの屋敷を訪問されるということで、朝から皆が張り切っております」
「そうなんだ。それは頼もしいよ」
今日の午後にはマルティーヌが初めて大公家の屋敷にやって来る。俺からしたら気軽に話せる相手だけど、皆からしたらこの国の第一王女殿下でしかないから、午後に向けて使用人は結構緊張しているみたいだ。
「最初に屋敷の中を案内して、それから東屋でお茶会にするからその予定で」
「かしこまりました。午後にはヨアンが屋敷へ戻り、お茶会のためにスイーツを作る予定となっております。降誕祭用のミルクレープの最高傑作を作ると意気込んでおりました」
「そうなんだ……ヨアンに楽しみにしてるって伝えておいて」
ヨアンはオーバーワークだよな……アイテムボックスに入れられているスイーツを出してくれるんで良いよって何度も言ったんだけど、ヨアンが王女殿下がいらっしゃるのならば出来立てを……! って譲らなかったのだ。
それがヨアンのプライドなら断るのも違うかなと思ってお願いしたけど、やっぱりヨアンの過労が心配だ。今日が終わったら数日は休みにするべきかな。後でアルノルに話をしておこう。
「じゃあ朝食に行こうか」
「お供いたします」
それからいつもより少なめに朝食を食べて出掛ける準備を整えたら、ロジェが用意してくれたお忍び用の馬車に家族皆で乗り込んだ。見た目はかなり質素だけど、中はしっかりとしていて快適な馬車だ。
今日はこの馬車で中心街を出て、王都の外れまでは行かないまでも、中心街から離れた平民達が暮らす地区に向かう。そこからは馬車を降りて歩きでの散策だ。
「お兄ちゃん、皆でお出かけできるの嬉しいね!」
「久しぶりだよね。マリー、今日はお忍びだから大公家であること周りに明かしちゃダメだからね」
「もちろん分かってるよ」
マリーはにっこりと微笑みながら、頼もしい雰囲気で頷いてくれた。これは完全に理解してくれてるな……マリーは本当に成長した。最初の頃は俺に関する隠し事について、よく分かってない感じだったのに。
「母さんと父さんもよろしくね」
「ええ、もちろんよ」
「それにしても楽しみだな。中心街から出るのが久しぶりだよ」
「そうだよね。二人はずっと屋敷と食堂の往復しかしてないんじゃない?」
「そうね。でも毎日忙しくて楽しいから良いのよ」
母さんがそう言って父さんも笑ってくれてるけど、もっと自由に色んなところに行きたいと思ってるだろうな。でも大公家として出かけるのじゃ息抜きにならないんだろうし……もっと俺が転移で連れ出してあげた方が良いのかもしれない。
そうだ、領地が整ったら二人にはそっちに住んでもらうのもありかな。ただそうするならマリーが悲しむだろうから、領地と王都を転移で往復できるようにならないと。最近は魔力量を真剣に増やしていてかなり転移距離も伸びてるけど、もっと必要だ。
「それにしても前は普通に着てたのに、貴族の服装に慣れちゃうとこの服は肌触りが悪いな」
「本当ね……知らないうちに私達も贅沢に慣れてるのよ」
「私もそう思った。このお洋服……ちくちくする」
「貴族の服と比べちゃうと仕方ないよね」
俺達が着てるのは平民だった時代に実際に着てた服だから、かなり質は低い。大公家の屋敷では雑巾としても使われないレベルだ。でもだからこそ、お忍びだってことはバレないだろう。
それから馬車に揺られること三十分、俺達は賑わっている広場の端で馬車から降りた。今日は屋台で使う荷物を幌馬車で運んでいる人達もいるみたいで、そこまで目立たず広場に降り立つことができたようだ。
「うわぁ、凄いね! 屋台がたくさん出てるよ!」
「本当ね。なんだか人がたくさんいるところは久しぶりだわ」
「クレープの他にも色々と売ってるな」
予想以上に降誕祭は平民の間で浸透してくれているみたいだ。クレープの屋台がそこかしこに点在していて、さらにはそれ以外にも串焼きやスープ、パンなど普通の食事を売っている屋台もある。また木製のアクセサリーや置物など、贅沢品を扱っている屋台も幾つか目に入る。
「うちのクレープは卵焼き入りだよ!」
「うちのは串焼きクレープだぞ〜」
呼び込みの声を聞いていると、個性的なクレープがたくさん作られているようだ。
「気になったクレープを端から買ってみようか」
「うん! 私あのクレープが食べたい!」
「どれどれ……えっと、トマトソースパンクレープ?」
かなり個性的なやつを選んだな。マリーに手を引かれて屋台に向かってみると、店員の若い男性が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい! うちのクレープは絶品だよ。パンにトマトソースを浸してそれをクレープの皮で包んでるんだ」
「すっごく良い匂い!」
「おっ、お嬢ちゃんさすがだな。お目が高い」
男性に褒められて、マリーは若干ドヤ顔で笑みを浮かべた。誇らしげなマリーが可愛い……写真を撮りたいのにカメラがないのが悔やまれる。
「マリー、一つ買おうか」
「うん! お兄さん、一つお願い」
「はいよ、まいどあり!」
降誕祭一つ目のクレープはトマトソースパンクレープだ。どんな味なのか楽しみだな。男性からクレープを受け取ってお金を払い、家族皆で空いているベンチに腰掛けた。
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