第403話 ファイヤーリザード討伐
今度は一時間ほど魔物の森を駆け抜けると、ファブリスがぴたりと足を止めた。
『主人、今回は当たりみたいだ。ファイヤーリザードが三体いる』
「やっぱりそうなんだ……」
ファイヤーリザードってかなり強いのに、三体もいるとさすがに俺達でも少し躊躇う。前は俺の剣は全く通らなくて、魔力を込めまくって鉄よりも硬く尖らせたバレットがかろうじてぐらいだった。
目と口を狙うにしても、最初からそこを狙わせてくれるほど優しくないし……とりあえず無理せずに攻撃して、隙を見逃さずに急所をつくしかないかな。
「ファブリス、一体ずつ確実に仕留めていこう。前と同じように俺が先制攻撃して隙を作るから、ファブリスは急所を狙ってほしい」
『了解した。三体いるとなればほぼ確実に親子だ。子を守ろうと親はより凶暴になる、油断せずに行くぞ』
「分かった」
ファブリスのその言葉を聞いて、俺は剣に纏わせようと思っていたバリアを解除し、体の周りに纏わせた。危ないから防御重視にしよう。
そして剣での攻撃ではなく、魔法での攻撃メインで戦うことにする。
『では行こう』
ファブリスが駆け出していった方向に俺も走ると、すぐにファイヤーリザードの咆哮が聞こえてきた。そしてその一瞬後に、森を焼き尽くす勢いで炎のブレスが吐かれる。
俺はバリアでそれを防ぎ、ブレスが消えると同時にファイヤーリザードを目視することができた。邪魔な魔植物があらかた消え去ったのだ。
『アイアンバレット』
魔力で金属よりも硬くしてるのだからいつものバレットとは違うかなと思い、ここに来て新たな魔法を作り出して放った。するとアイアンバレットはファイヤーリザードの尻尾に弾かれたけど、少し傷をつけることには成功したようだ。
ファイヤーリザードは痛みに叫び、さっきまでよりも怒った様子で俺達の方に駆けてくる。幸運なことにさっきから攻撃を仕掛けてくるのは一体だけで、他の二体は後ろで様子を窺ってるだけだ。今のうちに一体を倒してしまいたい。
『バレット』
今度は大量の強度を上げていないバレットを作り出し、ファイヤーリザードの顔面に向けて全てを一斉に放った。するとファイヤーリザードはさすがに鬱陶しかったようで、顔を横に振って身を捩る。
俺はその一瞬の隙を見逃さずに、ファイヤーリザードの目の前に転移をして近距離からアイアンバレットを放った。
すると俺が放った魔法は急所にヒットし、ファイヤーリザードを絶命させた。そして仲間が倒れた衝撃で後ろの二体が怒りに我を失い、俺に向かってがむしゃらに攻撃を仕掛けてきたところを……ファブリスが攻撃して一体を絶命させた。
そして最後の一体は俺に向かって鋭い爪で攻撃を仕掛けて来たけど、咄嗟にバリアを纏わせた剣で受け止めて、相手の動きが止まった隙に目を狙ってアイアンバレットを放つと……最後の一体も地に臥した。
「終わっ……た?」
『ああ、三体とも絶命しているぞ』
「……なんか、予想以上にあっけなかった気がするんだけど。俺の攻撃が致命傷を与えられると思ってなかったし、他の二体ももっと苦戦するかと思ってた」
前よりもファイヤーリザードが弱くなってる気がする。ファイヤーリザードの個体差なのか、もしくは……
「俺って、強くなってる?」
『それは強くなっているだろう。魔力量もどんどん増えているし、我と主人は定期的に魔物の森で戦っているのだから。さらに主人は鍛錬も欠かしていないだろう?』
「そっか、そうなんだ」
なんか、凄く嬉しい。俺って強くなってたのか。最近は苦戦する相手なんていないし、自分の成長を感じることができなかったんだ。
思わぬところで成長を実感して大満足だ。ファイヤーリザードも討伐できたし、良いこと尽くめだな。
「魔物は全部倒すつもりだけど、腕試しできる相手がいなくなるって考えるとちょっと寂しいかも」
『確かにこの世界には強きものがいないからな。だが、それならば我と戦えば良いのではないか?』
「……確かに。そういえばファブリスと手合わせしたことってなかったよね」
魔物の森を駆逐できて広くて何もない土地をたくさん手に入れられたら、その一角でファブリスと手合わせをすることにしよう。これは結構楽しみな予定かも。
『我が主人を蹴散らしてくれよう』
「ふふっ、勝つのは俺だから覚悟しといて」
そうして俺達は今後の約束をして、二人で機嫌良く皆のところに戻るために魔物の森を駆け抜けた。もちろんファイヤーリザードは三体ともアイテムボックスの中だ。
魔物の森から抜けられたのは昼を少し過ぎた頃だったので、皆にはあまりにも早い帰還に心底驚かれた。ファイヤーリザードの実物を見てもらって、初めて討伐したことを信じてもらえたほどだ。
ただそれを見せてからは凄かった。キラキラした尊敬の眼差しで見つめられたり祈りを捧げられたり……ミシュリーヌ教の布教という点に関しては完璧だと思う。俺の居心地の悪さも凄かったけど。
午後は一緒に魔物の森の駆逐を行い、夕方に今日の仕事は終わりとなった。ファイヤーリザードの実物を見たからか騎士達がかなり張り切っていたので、予想以上に魔物の森を押し返すことができた気がする。
「フェリシアーノ殿下、ファイヤーリザードはどうすれば良いでしょうか。被害を受けた街の方々にお見せしますか?」
実際に倒されたファイヤーリザードを見ることで安心に繋がるかなと思ってそう提案すると、フェリシアーノ殿下はありがたいと感謝を述べてくれた。
「街に戻り次第、被害を受けた街の者にどうしたいか聞いてみますので、それまで持っていただいても良いでしょうか?」
「もちろんです。よろしくお願いします。……それからこれは不謹慎かもしれないのですが、ファイヤーリザードの肉はとても美味しいので、もし被害を受けて食料が厳しいようでしたら、食材にしてしまうという手もあります。一応参考までに」
フェリシアーノ殿下は俺のその言葉に衝撃を受けた様子で固まった。そして恐る恐る口を開く。
「魔物を、食べるのですか?」
「はい。……貴国では食べないのでしょうか?」
「食べるという話は聞いたことがありません」
「そうなのですね。我が国では珍味として食べられています。そこまで主流ではないですが、前線の街には魔物料理のお店があるんです。ただ美味しい魔物とそうでない魔物がはっきりと分かれていて、特に弱い魔物は美味しくないものが多いそうです。ファイヤーリザードは魔物の中でも上位に位置する美味しさです」
俺のそんな説明に先程は衝撃を受けていた殿下と騎士達は、少し興味が出てきたような表情を浮かべた。しかしまだ魔物に抵抗があるのか、自分の国の街を襲ったファイヤーリザードに抵抗があるのか、食べてみたいとは口にしない。
「以前別の場所で討伐したファイヤーリザードのステーキがまだ残っていますが、食べてみますか? アイテムボックスは時間経過を止められるので焼きたての熱々です」
そう提案しながらステーキを一皿アイテムボックスから取り出して、皆の方に近づけた。すると良い匂いが届いたのか、誰かのお腹がぐぅぅと音を立てる。
「遠慮せずにどうぞ」
その音に笑いそうになる顔を何とか引き締め、フォークに刺してステーキを差し出すと、フェリシアーノ殿下が恐る恐る受け取ってくれた。そしてステーキをまじまじと見つめてからパクッと口に入れる。
「な、何だこれ……凄く美味しいです。牛の赤身肉のような食感と味ですが、それよりも旨味が強い気がします。噛めば噛むほど美味しさが溢れてくるような……」
「そうなんです。私も最初に食べた時は高級な赤身肉に似てると思いました」
それからは何回か追加でステーキを取り出して、その場にいる騎士全員に試食をしてもらった。そして大絶賛を受けて、殿下がファイヤーリザードの話を被害者の方々にする時に、食料になることも一緒に伝えてくれることになった。後はその人達が決めたことに従おうと思う。
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