第402話 使徒の規格外さ
見た目が派手でインパクトを与えられる魔法が良いだろう。そうすると転移とかバリアじゃなくて、もっと攻撃力が重視のやつ……やっぱりロックトルネードかな。
ロックトルネードって最初の頃に作ったはいいんだけど、魔物を倒したらぐちゃぐちゃの肉片にしちゃうし、魔植物を倒すのに使ってもバラバラになって片付けが大変だし、最近はほとんど使っていない。でも見た目の派手さとその攻撃力は凄いものだから、パフォーマンスにはもってこいの魔法なのだ。
「フェリシアーノ殿下、皆を安心させるためにも私の実力を示して良いでしょうか? それによってファイヤーリザードに恐怖を感じている人も楽になると思うんです」
隣に立つ殿下にそう提案すると、殿下は好奇心を抑えきれない表情で了承してくれた。そういえば殿下も俺が戦ってるところは見てないのか……そんなに期待の眼差しで見つめられると恥ずかしくなってくる。
俺は照れ隠しも込めて皆より魔物の森に近づき、背後にいる全員を覆うようにバリアを発動してから、目の前の森に向かってロックトルネードを放った。
かなりの魔力を注ぎ込んで作った巨大なトルネードは、バキバキバキッと派手な音をたてながら全ての魔植物、さらに魔物をも巻き込んで右へ左へと動き回る。
そして時間にして数十秒、かなりの範囲を蹂躙してトルネードは消え去った。後に残ったのは、魔植物の残骸の山だけだ。
これで魔物の森を駆逐できるのなら本当に楽なんだけど、これだと根が残ってるし倒しきれてないのもいるから、結局はここからこの残骸をアイテムボックスに収納していく作業をしないといけない。
こうして残骸の山になっちゃうと危険な魔植物が隠れていても分かりづらいし、さらに周りにまで残骸が飛び散ってるし……うん、やっぱり地道にやっていくのが一番だな。
俺はトルネードが消え去った後の惨状を見てそんなことを再確認し、バリアを消して後ろを振り返った。
「こんな感じで使徒の力って結構強いので、ファイヤーリザードに対しても戦えます。皆さんは安心して待っていてください」
そしてそんな言葉をかけたんだけど……誰も全く反応してくれない。ただ呆然と魔植物の残骸を凝視している。そんな居心地の悪い沈黙を破ってくれたのは、フェリシアーノ殿下だった。
殿下はいち早く我に返ると、怖いぐらいの勢いで俺の下まで駆け寄ってきて、跪いて深く頭を下げた。
「使徒様のお力を拝見する栄誉を給われたこと、誠に光栄でございます!」
そして周りの人全員に聞こえるようなよく通る声で、そう発した。それによって固まっていた皆も次々とその場に跪き、立っているのはラースラシア王国側の人間だけになった。
ロックトルネードを使っただけでここまで神格化されるとは……予想外だ。リシャール様達に見せた時は驚いてたけど、ここまで大袈裟じゃなかったのに。
……まあ、ちょっと張り切りすぎたっていうのもあるかもしれない。あの時よりもかなり大きなロックトルネードにしちゃったから。
「フェリシアーノ殿下、頭を上げてください。皆さんも普通に接していただけたら嬉しいです。私は確かにミシュリーヌ様の使徒で強い力を持っていますが、ただのレオン・ジャパーニスでもありますから」
俺のその言葉にヴァロワ王国側の皆は、跪いたままだけど頭を下げることはやめてくれた。ただそれに安堵したのも束の間、今度は騎士達の熱い視線に晒されることになる。
なんかめっちゃキラキラした瞳で見つめられてる気がする……ミシュリーヌ教の普及という点では大成功だったかもしれないけど、居心地の悪さは半端ない。ここはミシュリーヌ様に矛先を向けておこう。
「私にこの力を授けてくださったのはミシュリーヌ様ですから、ミシュリーヌ教の教会にてミシュリーヌ様に祈りを捧げて欲しいです。それによって救われることもあるでしょう」
その言葉を聞いた皆さんは、ミシュリーヌ様へ矛先を向けるというよりは、より一層ミシュリーヌ教への、要するに俺への信仰心が高まったようだった。なんかもう、何を言っても感動される気がする。
どうすれば良いのか分からずマルティーヌに視線を向けると、マルティーヌは労うような笑みを浮かべてくれた。
……俺を特別な存在として見ていない、そんな視線があるだけで落ち着く。
「ファブリス」
俺はマルティーヌに口パクで行ってくるねと告げてから、ファブリスを呼んで背中に跨った。そしてとりあえずこの居心地の悪い空間から抜け出すために、ファイヤーリザード討伐に向かうことにする。
「ではファイヤーリザードの討伐に行ってきます。皆さんはここをお願いします」
最後までキラキラとした視線を向けられて、俺は魔物の森の中に入った。そして視線から逃れたところで大きく息を吐く。
「ファブリス〜ちょっとやりすぎたかも」
『皆に凄い視線で見られていたな』
「だよね、凄かったよね。今にも祈りを捧げられそうな感じだった」
『だが良いことじゃないか? ミシュリーヌ様への信仰心がまた上がるぞ』
まあそうなんだけど……俺があんな感じで特別扱いされるのが苦手なのだ。仕方がないと割り切るべきなんだろうけどさ。
「これからはああいう扱いにも慣れるように頑張るよ」
『それが良いな』
「よしっ、じゃあ切り替えてファイヤーリザードを討伐に行こう。どこにいるか分かる?」
ファブリスは魔物の位置とその大まかな強さまで分かるので、今回はファブリス頼りだ。とりあえず強そうな魔物のところに行けば、ファイヤーリザードである可能性が高いと思う。
『ふむ、あちらに一つ強い反応がある。それから向こうに固まって三つ反応があるな。ただどちらもかなり奥に入ったところだが』
「そうなんだ……一体の方がファイヤーリザードかな。とりあえずそっちに行こうか」
『了解した』
それから三十分ほど魔物の森を奥に進むと、ファブリスがぴたりと足を止めた。そして今度は物音を立てずにゆっくりと歩みを進めて行く。俺はその様子に魔物が近いのだろうと思い、気合を入れ直していつでも応戦できるように構えた。
『主人、ファイヤーリザードではないみたいだ』
「え、そうなの?」
こっちがファイヤーリザードじゃないってことは、三体の方だったのか。でもファイヤーリザードが三体もいるなんてことあるのだろうか……もしかしたら別の魔物と戦ってるとこだったとか?
「とりあえず、こっちの魔物はなにか分かる?」
ファブリスにしか聞こえないように小声で呟くと、ファブリスの口から出たのは聞いたことのある名前だった。
『ウォーターサーペントだ』
あれか……あの粘液が気持ち悪いやつだ。高温の火魔法で焼けば粘液が剥がれて攻撃が通るんだったはず。
『倒すか?』
「うん、こいつが街を襲わないとも限らないし、倒しちゃうことにする。それにしても……今回は全然襲ってこないね。前の時は遠くから向かってこられた気がするんだけど」
『ああ、あの時は三体もいたし巣穴が近かったんだ。今回は単体でいるだけだし、我らが縄張りに入っていないから過剰反応されていないのだろう』
「そういうことか。じゃあ俺が魔法で粘液を剥がすから、とどめはファブリスにお願いしても良い?」
『了解した』
それから俺はファブリスから降りて、まだ視界に入っていなかったウォーターサーペントのところまでファブリスに誘導されて向かった。そしてやっと認識できた……と思った瞬間に、向こうもこっちに気づいて凄い勢いで襲ってくる。
しかしウォーターサーペントが、俺にその牙を届かせることはなかった。
『ファイヤーストーム』
かなりの魔力を込めた強力な炎の竜巻をその身に浴びたウォーターサーペントは、断末魔のような叫び声を上げながらその場にのたうち回り、そうして苦しんでいる間にファブリスの爪攻撃で胴体を真っ二つに切断された。
そしてドシンッと地面を震わせて、その場に崩れ落ちる。あまりにも実力差がありすぎてウォーターサーペントが可哀想になるな……
『完璧だな。主人の魔法はやはり凄い』
「ありがと。……そういえば前の時は魔人が来ちゃってウォーターサーペントを放置したけど、これも食べられたりするの?」
『うむ、普通に食べられるぞ。しかしファイヤーリザードほど美味くはない。噛めば噛むほど味は出るが相当に硬いのだ』
ファブリスが固いって言うってことは、俺達にとっては噛みきれない可能性が高そうだ。解体するのも面倒くさいし見た目も気持ち悪いし……これは放置で良いかな。
「これを食べるのはやめとくよ。それでファイヤーリザードじゃなかったけど、三体いるって方だったのかな?」
『我にも分からんが、その可能性は高いだろう。それ以外でこの辺りに強い魔物はいないからな』
「じゃあ次はそっちに向かおう」
『相分かった』
俺はまたファブリスの背中に跨り、ファイヤーリザード目指して魔物の森を駆け抜けた。
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