第401話 ヴァロワ王国騎士団と合流

 日が昇ってきてそろそろ終わりか……と頭が認識し始めたところで、途端に欠伸が出て眠気が襲ってくる。


「ふわぁ……ファブリス、そろそろ止めようか」

『うむ、確かに主人は一度休むべきだな』

「そうするよ……ファブリスの背中で寝てて良い? 昨日の街に戻って欲しいんだけど」

『了解した。街の近くに着いたら起こすぞ』

「うん、よろしくね」


 俺はファブリスとそんな会話をして背中によじ登り、バリアで自分を固定するとすぐ眠りに落ちた。


 そしてファブリスの呼びかけでハッと目が覚める。


『主人、着いたぞ』


 ファブリスの背中の寝心地が良すぎて、一瞬で寝落ちしてたみたいだ。でもぐっすり寝たからか疲れは取れている。一度大きく伸びをして体をほぐしてから、ふぅと息を吐き出した。


「ありがとう。じゃあ昨日の客室に戻るよ」


 俺はファブリスから降りて自分の足でしっかりと立ち、客室の端にあった広いスペースに転移をした。


「レオン様、神獣様、おかえりなさいませ」


 するとロジェが目の前にいて、しっかりと頭を下げて出迎えてくれる。なんで今この時に帰ってくるって分かったんだろ……ロジェって超人? 超能力者?

 魔法があるファンタジーな異世界でこんなことを考えるとは思ってなかった。


「ただいま。ロジェずっと待ってたの?」

「いえ、そろそろお帰りになる頃かと思っていたところ、ちょうどタイミングが良かったようです」

「……そうなんだ」


 やっぱり第六感的なものがあるんじゃないだろうか。凄いなロジェ、俺より凄いよ。


「まだお時間がありますが、お風呂に入られますか?」

「そうだね……入ろうかな。準備をお願いしても良い?」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 それから俺はお風呂に入ってさっぱりして、服を着替えて朝食を食べた。そして前日に決めていた集合時間に代官邸のエントランスに向かう。


「マルティーヌおはよう」

「レオンおはよう。昨夜は大丈夫だった?」

「もちろん。かなり魔物の森を押し返せたと思うよ」

「それは良かったけど……疲れてない?」


 マルティーヌは心配そうな表情を隠しもせずに、俺の顔を覗き込んでくれた。俺はそれが嬉しくて思わず顔が綻ぶ。


「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう。それよりも本当にマルティーヌも行くの? ここで待機してても良いのに」

「もちろん行くわよ。私の回復魔法は役に立つと思わない?」

「それは役に立つだろうけど……」


 マルティーヌには俺が回復魔法を直接教えたから、他の人とは比べ物にならないほど精度が良い。でも危険なところには行って欲しくないんだけど……マルティーヌはそうして大切に守られるのを好まないタイプだ。


「バリアの魔法具は持ってるよね?」

「もちろん持ってるわ」

「何かあったら絶対に、躊躇いなく使って」

「分かってるわよ。そんなに心配しなくても大丈夫」


 そう言って微笑んだマルティーヌに、それ以上心配だと詰め寄ることはできなかった。護衛の騎士達もそれ以外の騎士もたくさんいるから、万が一にも危険なことは起こらないだろうけど……俺もより一層気合を入れよう。絶対にマルティーヌを危険に晒さないために。


「マルティーヌ王女殿下、ジャパーニス大公様、おはようございます」

「フェリシアーノ殿下、おはようございます」

「大公様、昨夜はどうだったでしょうか……?」


 殿下はかなり気になっていたのか、挨拶もそこそこにそう問いかけてきた。


「魔物の森に行ってきました。被害を受けた街周辺の魔物の森を、他の部分と同等程度まで押し返すことができたと思います」

「そ、それは本当ですか!?」


 殿下がかなり驚いた様子で声を上げたことで、エントランスに集まっていた皆の視線が集まる。


「まさか、一晩でそんなに……?」

「はい。休まずに頑張りましたので」

「使徒様……本当に、本当にありがとうございます」

「ちょっ、ちょっと殿下! 頭を上げてください!」


 周りにたくさんの人いるのに頭を下げた殿下に、俺は慌てて頭を上げてもらった。俺は使徒だけど他国の一貴族だから、王族に頭を下げられるなんてあり得ないことなのに。


 周りにいた代官邸の使用人や代官本人まで、相当驚いたのか全員が固まっている。はぁ……なんで俺ってこんなに王族に頭を下げられるんだろう。


「貴国を助けるのは我が国との契約ですから、当然のことをしたまでです。感謝ならば騎士達にも言葉をかけてあげてください」


 俺はなんとかそんな言葉を口にして、その場を丸く収めた。いや、丸くというか無理矢理かもしれないけど。


 そして馬車に乗り騎士達を引き連れて、ヴァロワ王国騎士団の野営場所へと向かう。ヴァロワ王国の騎士達は数日に一度街に戻る程度で、基本的には野営をして過ごすらしい。今日はまずそこに向かって合流し、俺とファブリスはファイヤーリザード討伐、他の皆は魔物の森の駆逐と別行動をすることになっている。


「あ、見えてきたわね」


 馬車から外を眺めていたマルティーヌが声を発したので俺も外を見てみると、遠くにかなりの人数の騎士達がいるのが見える。


「本当だ。フェリシアーノ殿下、今日はこの場所で魔物の森と相対するのですか?」

「いえ、被害を受けた前線の町付近ということになっています。よってあの場所で合流はしますが、馬車を止めることはありません」

「そうなのですね」


 殿下の言葉通り、ヴァロワ王国の騎士達がいた場所で馬車は止まることなく、そのまま通り過ぎて進んでいった。窓から見える範囲で後ろを眺めてみると、車列の一番後ろに騎士達が付いてきているようだ。



 そうしてまた数十分ほど進み、一行は昨日の夜に俺とファブリスが暴れ回った場所に到着した。改めて見てもかなりの範囲を駆逐したなぁ……思わず感嘆のため息が漏れてしまう。

 俺が自分で見てもそう思うのだ、他の皆は目の前のあり得ない光景に呆然と立ち尽くしている。


 魔物の森を押し返す時には細かい葉や枝が地面に落ちるけど、放っておいてもそのまま枯れてしまうものは放置しているので、魔物の森を押し返した場所は明らかに他と違っていて一目で分かるのだ。


「で、殿下、これは一体……」


 ヴァロワ王国騎士の中でも身分が高そうなおじさんが、なんとか我に返ったようでフェリシアーノ殿下に意見を求めにやってきた。すると殿下は実際に見た衝撃を引きずりつつも、しっかりと事実を述べる。


「実は昨夜、使徒様と神獣様が魔物の森の駆逐をしてくださったのだ。ここはその場所だろう。……使徒様、合っているでしょうか?」

「はい。昨夜俺とファブリスが森を押し返した場所です」

「そ、そうです、か……」


 まだ騎士達は事態が飲み込めてない様子だ。まあそうだよね……自分達が命懸けで必死に対処してるのにどんどん進行してきてたんだ。それが一晩でこんなに押し返しましたなんて言われたら、呆然とするのも仕方ない。


「今日はこの場所をさらに押し返して欲しいんです。またそれと並行して、互いの国で効率的な魔物の森への対処法があれば、積極的に共有し合ってください」


 俺のその言葉に騎士団代表の人はハッと現実に戻ってきて、真剣な表情で頷いてくれた。


「かしこまりました」

「よろしくお願いします。そして皆さんが魔物の森を押し返してくださっている間に、私はファブリスとファイヤーリザードを倒してきますね」


 俺のその言葉を聞き実際にファイヤーリザードの姿を見た騎士達は、不安と期待の眼差しを向けてくる。あの強大な敵を俺に倒せるのか、この光景を見てもまだ半信半疑なのだろう。

 ここは一つ大きな魔法で実力を示した方が、皆の士気も上がって良いかもしれないな。

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